2014/04/30

走らずに急ぐ [ for Students ] 第5回

ライブレコーディング・エンジニアの西沢です。
音の業界を目指す学生さん向けの [ for Students ]、
第5回のテーマは【走らずに急ぐ】です。

現場では「急げ」と叱られます。
しかしまた、「走るな!」とも注意されます。

……いったいどうしたら???

走らずに、急ぐ。これしかありません。

まず、走るとモノや人にぶつかる危険があります。

私が多く携わる室内楽やオーケストラの現場ですと、楽器の中には数億円という代物も……値段がすべてではありませんが、替えの効かないモノを壊すわけにはいきません。ケーブルに足がひっかかり、マイクスタンドが倒れ、マイクロフォンが楽器にぶつかる、なんてドミノ倒しは想像すらしたくありませんよね。また、モノばかりでなく安全第一、怪我をさせない・しないことが何より大切です。

次に、スタジオやステージで走り回ると、忙しくない人にまで「慌ただしい雰囲気」が伝染してしまいます。さらには心拍数が上がり冷静さを失う可能性もありますので、「走らない」を心がけると結果として仕事が早く進むとも考えられます。

走る = 急いでいる ではありません。客観的には

走る = 慌てている ように映ります。

現場では、優雅(のんびりとは違います)に、音を立てず、てきぱきと。例えば飲食店のホールスタッフが料理の提供時(=往路)に空いたお皿やグラスを片付ける(=復路)ように、往路と復路を有効活用するだけでも仕事は早くなります。的確な仕事ができていれば走らずとも十分なのです。


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2014/04/23

先を読んで “おつかい” を [ for Students ] 第4回

ライブレコーディング・エンジニアの西沢です。
音の業界を目指す学生さんの向けの [ for Students ]、
第4回のテーマは【先を読んで “おつかい” を】です。

新人の仕事は「おつかい」、いわゆる「パシリ」から始まります。


先輩:「◯◯持って来て!」


私も音響ハウスに入社した当初は、マイクロフォンの種類に圧倒され型番(機材名)が覚えられなかったので、手に直接メモして急場をしのいでいました。

まず最初は、「機材名を覚えて、きちんと おつかい ができること」から始め、
機材名を覚えたら、次は「“あれ” 持ってきて!」の「あれ」がわかるようになること、
そして「言われる前に用意しておく」レベルを目指します。

最終的には、「繋いでおきました」「準備できてます」「ほかに◯◯も必要じゃないですか」などと提案できるくらいになれると、現場の雰囲気も良くなること請け合いです。

先を読んで “おつかい” するためには、「なぜ、今、その機材が必要とされているのか」を理解することが大切です。先輩が何を考えて行動しているのかも見えてきますし、その辺りがわかってくると先回りして仕事ができるようになります。


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2014/04/22

大切な事は水平線の下にある(その2)ー感情が伝わりやすいのがDSDー

『大切な事は水平線の下にある』
佐藤正治 x オノ セイゲン

インタビュアー:根本 "マッシュ" 智視
(サイデラ・マスタリング スタジオマネージャー)

サイデラ・マスタリングでは、ふつうのCDマスタリングの際に、同時にハイレゾのマスターを作成することを推奨しています。Ototoyより、DSD 5.6MHz、PCM 24bit/192kHzでリリースされる『MASSAⅡ』のDSDマスタリングを完了したばかりの、ヒカシューのメンバーとしても知られる佐藤正治さんと弊社シニアエンジニアのオノ セイゲンのふたりに話を聞きました。
「(その1)ー目の前に広がる世界がいかに違うかー 」はこちら。

= 音楽には力があります。それは単なる音ではないのです。ただし、音を介して「感情を時間軸に織り込んだ」もの、それこそが音楽です。サイデラ・マスタリングでは、リスナーの心に「伝わる音」の技術を提供しています。 =


「大切な事は水平線の下にある(その2)ー感情が伝わりやすいのがDSDー」

佐藤:「今回誰にマスタリングしてもらうの?」と藤井さんに訊かれて、「セイゲンさんですよ。」って言って。誰がマスタリングするのかで自分のミキシングを変えて、後の作業に余裕を持たせるというのかな、「マスタリングでやった方が良いことは残しておきながらミックスをするね。」ということを僕に一言言って。そこにはエンジニア同士の信頼関係っていうのがもちろんあるわけで、その辺のさじ加減に関しては、藤井さんとの付き合いも長いこともあって、僕は安心していました。ミックスダウンは、定位にしろ何にしろ、データ的な解釈ではなくて、絵画的というか、ミックス自体に演奏家のようにどういう想いがあるかが表れているかどうかを聴いて、善し悪しを判断するという作業でしたね。

オノ:ミキシングとは、それが一番大事なことなんですよ。みんな本末転倒しているんだけど。なんでミキシングするのかっていったら、そうやって音楽の表現として、ダイナミックレンジと音色を作って、リスナーにはそのままを聴いてもらいたいわけですよ。私のマスタリングのポリシーで大事にしてることは「自分のカラーをつけたり、脚色したりしない」こと。ミキシング現場では、演奏家がミキシングエンジニアといっしょに、表現はこうしたいんだなっていうマスターを完成してきあがってるんですから。その感じから、それ以上の色付けせずにリスナーまで届ける事。だからそこに自分の趣味嗜好とかボリューム競争とかは極力織り込まない。もちろん自分流の個性で勝負するマスタリングエンジニアはいっぱいいますよ。私はあえて自分の個性は押し付けない。本来、ミキシング現場での音はこういう感じでコントロールルームのスピーカーから出ていたはず、というのを再現するだけ。こう聴かれてたな、演奏者はこれを届けたいんですよ。マスタリングとは、そこが最初のステップですよ。もちろん最初から「ボリューム勝負で限界まで」というオーダーもありますよ。出来ませんとは言いませんけど、それは私にとってはクリエイティブな仕事ではない。それは私がやらなくても、ほかのもっといいエンジニアを紹介します。

佐藤:それ超親切だよ(笑)。

オノ:刺激が強い方を選びたがるんだよね。しかもアルバム全部聴くんじゃなくて、1曲だけとか1曲の頭だけとか聴いてね。レコード店頭では試聴機に入ってる曲みたいに、3曲の頭だけ聴いて買うかどうかを決める人は、今回のような仕上がりだと、がちゃがちゃ騒がしい店頭で時間もないし、しっかり聴けなかったりする。通して聴くと、実は違う、感動するのにね。

佐藤:心ある人達は、ここ何年も何十年もずっと言ってることだけれど、結局音楽がなぜあるかっていうことを考えると、そういう感動したりとか、いろんな大切なものがあるはずなのね。さっき言った刺激とか、そういうところにいくのは商売だからしょうがない部分もあるかも知れないけどね、ビジネスだから。だけどすごく大事なことは、音楽が本当になぜあるのかってことなんですよね。そのことを置き去りにして音楽業界の中だけで競争してるから、音圧競争みたいなのが始まるわけで。そんな音楽ばかりになってしまったら、本当に音楽を愛している人達は、音楽産業に愛想を尽かせて去って行ってしまう。

オノ:今おっしゃったことがまさに、20年間のボリューム戦争で起こってしまったことで、演奏の細部の表現や音色を犠牲にしてまでボリューム優先にしたことが、音楽CDのマーケットがなくなった一番の原因です。面白くなくなった原因の2つ目は、良い音で聴いてないということです。音色を届けられていないということね。ボリューム戦争=演奏や音色の平均化が起こっていて、すごく上手い最高のグルーブも、そこそこ上手い演奏も、まあ普通かなという演奏も、全部同じに聴こえる。全部が、まあ普通の演奏に聴こえてしまう。

佐藤:全部普通。そんなものは誰も求めてないはずなのに。音楽にとって必要不可欠なものを捨ててきてしまったんだよね。それを普及していかなきゃだめですよね。だってクライアントが詰め込めっつったら詰め込まなきゃなんない世の中だから。

オノ:最近のCMでは、さっきも言ったけどボリューム突っ込めばオンエア乗りが良いかっていうと、そうではないんです。だからボリュームを詰め込めば良いとはいえなくなった。ボリューム戦争は終わった。私の中では、もう何年も前に完全に終わってて、あとは本当にクライアントやアーティスト自身がなんで録音やってんだ、ってことに気付いてくれるかどうかって言う点です。

佐藤:今、セイゲンさんの言われた、CMのボリュームとオンエア乗りの話っていうのは、少なくとも発注する側のプロフェッショナルは、みんな知っていてほしいと思いますね。たくさんいると思うんですよ、とりあえずボリューム詰め込まなきゃみたいな人が。でもさっき言ったみたいに、下手すると音楽自体の存亡に関わることになりかねない。

マッシュ:今は過度期でハイレゾとCDと2つがあるんですが、聴き比べないと分からないんですよね。そういうものだと思って。

オノ:そりゃそうだ。

佐藤:逆に言えば、聴き比べれば、どんな人でも分かる。

マッシュ:それでどちらが好きかどうかっていうのはまた別の話になるんですけど、違いって言うのはだれでも分かるはずなので、まずは聴いてもらわないとってことですよね。こういうのもあるんだぞっていうのを知らない人の方が圧倒的に多いと思うんですよね。

佐藤:で、今回面白かったのが、人って僕らでもいろんなこと分かっていながら、大きい方をって選びたくなっちゃうところもある。それほど鈍くはないのですぐ分かるんですけど。今回逆にね、アンプのボリュームは変えないで、でかいのを聴いてから、ダイナミックレンジが広いんだけど小さい方に戻したときに、空間に限界があることを音量ってのは表現して、ダイナミックレンジってのは、空間は無限であるとことを表現するんだってことをすごく感じて。

オノ:素晴らしい事言うね!「ダイナミックレンジってのは、空間は無限であるとこと」おっしゃる通りですがな。

佐藤:音量が小さくても素敵なんですよね、小さく、というかダイナミックレンジの大きな方をかけたら空間が大きく感じた、それが嬉しかったですね。これだよね。これでしょうって。

オノ:俺たちがやってんのはこれだよねって。

佐藤:そうそう。それで迷うことなく、MASSAの新譜「MASSA Ⅱ」は、ダイナミックレンジの広い方で出すことにしました。音量に関しては、本当に豊かな音を体験して頂けるように、わざわざそういう風にしてるんですってことを書いて、逆にアピールをしようと思ってます。

オノ:すごく大事なことなんです。演奏家の人たちは、もっと自信もってアピールして欲しい。遠慮なく、指摘するのです「こんな音でやってませんよ」って。つまり、万一(けっこうよくある話なんですが)自分で演奏している通り、つまりそこで楽器から音が聞こえているとおりに、プライバックすると聴こえていない場合が問題なんですね。昔からドラマーが一番うるさい。名前は出しませんが「オレの音、こんなおとじゃないよ!(怒)」で、ドラムの音決めがさっと終わらないとつぎに進めない。

佐藤:あとね、こういう録音なりマスターが残る、残るんだぞっていうことで、演奏家が育つと思う。

オノ:名言が次々と出ますね!「演奏家が育つ録音」。

佐藤:無理矢理音圧上げて詰め込んだ音は、それこそ機械か人間か判別がつかないような音になってしまう。

オノ:残念ですね。そんなもんで演奏のスリルというか、音色やダイナミックレンジが良いかと思っちゃうんですよね。

佐藤:そうです。逆に豊かな音は演奏家を育てます。シビアだから。

オノ: DSDマスタリングって、演奏やってる「状況そのものが見える」でしょ。どんな繊細なタッチでも、どういう奏法やってるかって。マレットの違いとかもちろん。実はヒカシューの新作『万感』もすごい演奏、素晴らしいんですよ。ルー・リードのエンジニアも担当するマーク・ウルゼリがエンジニアで、日本ではあまり知られてないけど、私はイチオシのエンジニアです!あれもね、もちろんDSDミキシングしてもらって、DSDマスタリングは、ここでメンバー立ち会いでやった。でも、結局CDの方は前作『うらごえ』にも合わせて、少しレベルアップしようかってことになり、3dBアップ5dBアップとかいろいろ作ってね。5dBアップだとやっぱり音楽自体が変わっちゃうので。演奏のスリルが消えてしまうんですね。だから同じミックスマスターからなのに、『万感』はCDとDSDダウンロードでは違う演奏に聞こえちゃいます。演奏のスリリングさはDSDです。で、お気軽に聴くならCD。

佐藤:そうですよね。

オノ:やっぱり演奏の差が抜きん出て出るのは、いわゆるコンプレッションとか、ボリューム戦争の方にいかないやり方なんですよ。何が変わるかというと、コンプがかかると演奏が下手な人も上手い人も同じ感じになってっいっちゃう。マスタリングで「演奏が良くなりました」とか「こういう演奏がしたかったんだよね」って言ってくれる人もいるんですけど。実はそれはすごく良い演奏のクラシックの演奏が上手い人もジャズの演奏が上手い人もそうなんだけど、ヒカシューの今回の演奏なんかね、まさにそれに匹敵して、どれぐらい繊細なとことかスピード感とか立ち上がりとかが出るかって。またマークのミックスがまたこっちもまた良いんだわ。

佐藤:そう、マークも超やる気でね!

オノ:彼は、いまローリー・アンダーソンと一緒に悲しみのどん底です。ルー・リードが亡くなって。その中で、ソロとかのフレーズに別に彼がいるわけじゃないんだけど、悲しみとか聴こえてくるわけ。

佐藤:わかるわかる。間にね、すごい痛みを感じるミックスだったから。

オノ:でしょ。そういうの感じるじゃない。で、こういう細かい痛みとか、演奏の上手さとか繊細なところが、小さな音量の部分を上げていく程に、それがなくなっていって、演奏家の差とか音色の差が分かりにくくなっていく。この価値の差は大きい。感情が伝わりやすいのがDSDであるとも断言できる。

佐藤:それは演奏家から聞くとすごい分かり易い表現だなって思いますね。だから演奏家のテクニックや感性をダイナミックレンジに例えれば、狭めることによって似てきちゃうっていう。そういうのと同じなんだよね。おもしろい。

昔、金子由香利さんのシャンソンを聴いて、すっごい小さい声でやるの。だからバンドもすごい小さい音でやんなきゃならない。それでお客さんみんながこうやって体が前のめりになる頃に、わーんって自分の言いたいことを感情込めて歌う。そうするともう、観客は打ちのめされてしまうの。


関連リンク:
OTOTOYインタビュー: ヒカシューの佐藤正治率いるMASSA、過去の2作がハイレゾで蘇る!
Saidera Mastering Blog: (その1)ー目の前に広がる世界がいかに違うかー 」

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4/23(水)MASSAライブ
佐藤正治(Per.Vo.) 細井豊(Key.VO.) 太田恵資(Vln.VO.)
open 19:00 / start 19:30
会場:代官山 Simple Voice
TEL:03-6416-3107
住所:東京都渋谷区代官山町14-10 Luz代官山B1
料金:一般予約:¥3000 当日¥3500  
学生¥2500 (各+1ドリンク)
MASSA website http://ok-massa.com/massa/
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2014/04/18

大切な事は水平線の下にある(その1)ー目の前に広がる世界がいかに違うかー

『大切な事は水平線の下にある』
佐藤正治 x オノ セイゲン

インタビュアー:根本 "マッシュ" 智視
(サイデラ・マスタリング スタジオマネージャー)

サイデラ・マスタリングでは、ふつうのCDマスタリングの際に、同時にハイレゾのマスターを作成することを推奨しています。Ototoyより、DSD 5.6MHz、PCM 24bit/192kHzでリリースされる『MASSAⅡ』のDSDマスタリングを完了したばかりの、ヒカシューのメンバーとしても知られる佐藤正治さんと弊社シニアエンジニアのオノ セイゲンのふたりに話を聞きました。

= 音楽には力があります。それは単なる音ではないのです。ただし、音を介して「感情を時間軸に織り込んだ」もの、それこそが音楽です。サイデラ・マスタリングでは、リスナーの心に「伝わる音」の技術を提供しています。 =

OTOTOYでの『MASSA Ⅱ』購入はこちらから。
http://ototoy.jp/_/default/p/41747


「大切な事は水平線の下にある(その1)ー目の前に広がる世界がいかに違うかー」

マッシュ:特にポップスの音源だと、ミックス段階ですでにマスタリングされたように音量が大きなものも、やはり多いですけど。今回のアルバムは、録音からミックスを担当した藤井暁さんがすごくダイナミックレンジのある仕上げをしてくれましたね。

佐藤正治:そうですね。ダイナミックレンジについては、ずいぶん前になりますけど、ドラマー達の間で「大切な事は水平線の下にある。」ということを言っていたんです。みんな上へ上へと音量を詰め込むことばかりやるけれど、大切なことはもっと下の方にある。だから、その部分をもっと充実させるべきだって。そういうのと同じようなことを今回、「MASSA Ⅱ」のセイゲンさんのマスタリングを聴いて改めて思い出しましたね。

オノ セイゲン:その会話はドラマー同士で?

佐藤:ドラマー同士です。先輩のドラマーといろいろ話している時、どのくらい大きな音量を出すことができるのかってことを話してたことがあって。実はね、全然もっと下のところに意味がある。上には天井、つまり上限があって、無音から上限の間をどのぐらい豊かに表現できるかっていうことが大切だという結論に達した。そういう表現こそがこれからのドラマーに大事になっていくっていうこと。20年ぐらい前に話していたんですけど、そのことを改めて思い出しました。

オノ:プロのドラマーが、まず音量とか良い音色を出せるのは当たり前だけど、安定してでかい音で叩けば良いかっていうと、そういう曲ってコンサートの中で必要なのはピンポイントで、少ないんだよね。そうするとその下の、つまり柔らかく、音色重視でたたけることが音楽として大切です。

佐藤:その中にどのぐらい深みのある音を表現できるかということが大切。そこの微妙な微細な変化というのを本当に人間は感じているので、演奏者はそれをもっと意識しなきゃと思いますね。

オノ:スティーブ・ガッドとか、すっごく小さい音量で、ただしごきげんの音色で、当たり前ですが完璧なバランスで叩くんですよね。

佐藤:そうですね(笑)。驚くほど小さい。

オノ:そして、ここはっていう決めのフレーズは、ほんのちょっと強く叩いただけで、メゾフォルテがぱっと抜けてくる。反対に若いドラマーも音色重視したら、そんなに力入れなくていいのにっていう場面もありますね。

佐藤:そう、だから、CDだって演奏を録って再現するという意味でいえば、一番大きい音は、もしかしたらCDの中で1箇所あれば良くて、そこに到達するところと、無音のところの、その間がどのぐらい充実しているかっていうことが重要ですよね。

オノ:今言った無音から一番大きい音、つまりダイナミックレンジはCDでいうと16ビット。ところがこの10年間、いわゆるボリューム戦争っていうのがあってね、もう波形を見るとソーセージ、羊羹のようになってて、それは16ビット分の階調を使っていない。ピークばかりに目がいってて、実質8ビットくらいですよ。

佐藤:そうね、板みたいにね。

オノ:この10年、20年間に本当に音楽をダメにした一番の原因と言えるのが、このCDのボリューム戦争です。そういうことが起こって来てしまって。マスタリングエンジニアは、クライアントに言われるままに音量を上げざるを得ないって。16ビットのダイナミックレンジの上は決まっているので、ピアニッシモでもなんでも上の方の8ビットくらいに全部押し込んでしまって、今おっしゃった「その間がどのぐらい充実しているか」階調が大事なんですが、下をどんどん押し込んてすごく狭いダイナミックレンジに仕上げてしまうんですね。カセットテープ並みのダイナミックレンジしかないのが多くなってしまった。聴くときにボリュームを少しあげればいいだけなのにね。

佐藤:出音が大きいと良く聴こえる、と言いますよね。

オノ:人間は刺激の強い方にながされちゃうんてす。プロデューサー、アーティスト立会いのもとで、念入りにミキシング完了しているのに、マスタリング時点で、それまでの流れをまったく知らずに最初からマキシマイザーみたいなのをかけて、エキサイティングな感じにしてしまうマスタリングエンジニアも居ますね。録音現場に居なかったエラい人が客観的意見と称して、A / B比較すると、もとのままより刺激の強い方、派手な方にひっばられてしまうんですね。もちろん、レベルさえでかければそれでいい音楽もあるんですが。表現の幅、音色という、音楽の本質的な部分が消えてしまわないようにやってほしい。

さらに、テレビは今世界的にデジタル放送になってから、ヨーロッパ・アメリカはー昨年から、日本も昨年から、ラウドネスコントロールっていうのが入ってきていますので、パッケージのメディア、CDとかでいくらレベルを詰め込んでも、そういうCDほど、放送では10dB以上落ちますから、結果的に安っぽ~い音になります。逆に小さな曲はMAの段階でひろってくれます。パッケージでもピークをフルまで使うっていうのは、もう恥ずかしくてできないね。ハイレゾ配信でもそれは始まってて、典型的なのは、ポール・マッカートニーの新譜のCDはレコード会社の意向として、まだイギリスとかはハイレゾが一般的というわけではないので、詰め込んだわけです。で、e-onkyoでも買えるハイレゾ配信の方は全然波形に余裕があるんですよ。全然違う波形でもっとダイナミックレンジのある仕上がりになっている。どっちが本物かというとね、今も言ったようにハイレゾの方です。

佐藤:絶対そうだよね。

オノ:これってまあ、実際にオーサリングする方としては、2種類作るのって大変なんだよね。

マッシュ:でも逆に2種類聴けるわけじゃないですか。聴き比べると、これは僕の嗜好趣味の部分ですけど、今回の作品だったら僕だったらやっぱりこっち(ダイナミックレンジのあるテイク)を選ぶなと思っていた方を、佐藤さんも選ばれたなーっていう感じがありますね。

佐藤:なるほどねー。

マッシュ:でも、お客様によっては、やっぱり音色とかというところよりも別の基準で選んだんだろうなって方もいらっしゃいますね。

佐藤:僕自身は演奏家なので、ものすごく広いダイナミックレンジの中で暮らしているんだけれど、CDという限られたダイナミックレンジをどういう風に扱うかという意味では、論理的なことと体感が一致していない部分があるわけなんですよね。今回2種類のマスター作っていただいて、こうやって2つを聴き比べることによって、分かっているはずなのに、目の前に広がる世界がいかに違うかということに、ある種の打撃を受けるというか。今回セイゲンさんにマスタリングして頂いた MASSA は、僕と細井豊と太田恵資の3人が完全に拮抗しているバンドで。藤井さんも仰っていたんだけれど、実は、3人いたら3人が全く対等に演奏してるグループって少ないんですよね。そこが MASSA のとても面白いところなんですが。拮抗した3人がどのぐらい微細な音量や音色のコントロールをしながら演奏しているか。変化する3つの音が紡ぎ合わさった状態であるからこそ、人の心を動かす力が生まれるということを改めて感じさせてくれるレコーディングでした。

オノ:またそれを本作を録音したエンジニア藤井暁さんが上手くとらえているんだよね。

佐藤:そうなんですよ。

オノ:ミックスといいね。彼はやっぱり元々劇場から来ている人なんで、ステージでおこる生音、演奏というのを、まるで仙人のようにわかっていてね。藤井さんもCDの録音をいっぱいやっているけど、本当に繊細に、しかも生演奏と同じだけのダイナミックレンジで録音、ミキシングされてます。要するに、当たり前なんですが「演奏そのまま」を捉えています。簡単ではないんですが、音が出ているとおりに録られている録音ですよね。

佐藤:奇跡的な、素晴らしいミックスだと思いますよね。それを終えて、今は、、、

オノ:どこかにボランティアに行ってしまった。東北を超えて、宇宙のどこかに。

佐藤:(笑)。宇宙のどこかにね...。あの人は、天使じゃなかったか、とか、Twitterとか見るとさ、僕らの知り合いも、人間じゃなかったとかいろいろ書いてるけど。

オノ:またふらっとスタジオに来そうですよね。


関連リンク:
OTOTOYインタビュー: ヒカシューの佐藤正治率いるMASSA、過去の2作がハイレゾで蘇る!

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4/23(水)MASSAライブ
佐藤正治(Per.Vo.) 細井豊(Key.VO.) 太田恵資(Vln.VO.)
open 19:00 / start 19:30
会場:代官山 Simple Voice
TEL:03-6416-3107
住所:東京都渋谷区代官山町14-10 Luz代官山B1
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2014/04/16

あいさつ [ for Students ] 第3回

おはようございます! ライブレコーディング・エンジニアの西沢です。
音の業界を目指す学生さんの向けの [ for Students ]、
第3回のテーマは【あいさつ】です。


そろそろ学校の授業が始まるころでしょうか。恐らく最初に(そして何度も)「挨拶は大事だぞ!」などと教わると思いますが、不思議なことに、この業界では昼夜関係なく

「おはようございます!」

なのです。

終了時には、疲れていなくても

「お疲れ様です!」「お疲れ様でした!」

この2つの挨拶を元気に明るく言えれば、現場では通用します(本当です)。繰り返しますが、明るく大きな声で。6dBアップ、音程も3度以上アップ。

私も就職したてのころ、社内や現場では誰とすれ違っても「おはようございます!」、そして何度も顔をあわせる場合には、その度に「お疲れ様です!」と挨拶していました(「お前はお疲れ様しか言えないのか!」と注意されたことも……)。

ところで、なぜ、深夜でも「おはようございます」なのでしょうか。

まず、時間が不規則な現場もありますから、気持よく仕事を始めるための工夫として定着したのではないでしょうか。歌舞伎界に起源があるという説もあるようです。

http://www.excite.co.jp/News/column_g/20130107/Cobs_ly_201301_post_2893.html

そして、現場では “誰が目上か判断できない場合が多い” ので――というか、平均年齢がぐっと低い音楽・音響業界では、年齢に関係なく先に入った方が先輩であります。社長や部課長が年下というケースも昔から珍しくありません――そんな理由もあって、丁寧な印象の「おはようございます」に落ち着いたとも考えられます。「こんにちは」「こんばんは」も、「こんにちはでございます」「こんばんはでございます」だと変ですよね。

とはいえ、業界に不慣れな方(関係者でない方等)は、普通に「こんにちは」「こんばんは」なので、無理やり「おはようございます」と返すと

(・o・) え???

ってなるから気をつけましょうね。とにもかくにもこの業界に入ったら(インターンでも)、誰よりも明るく大きな声で、「おはようございます!」「お疲れ様でした!」で1日目をスタートです!


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2014/04/09

平台・箱馬 [ for Students ] 第2回

ライブレコーディング・エンジニアの西沢です。
音の業界を目指す学生さん向けの [ for Students ]、
第2回のテーマは【平台・箱馬】です。


ステージ上で、いわゆる「ひな段」を組む際に使われる平台や箱馬には、レゴブロックの様にいくつかの規格化された形があり、それらの組み合わせによって様々な「形(広さ)」「高さ」を作り出すことができます。

もっとも使われているであろう平台は、「サブロク」と呼ばれる「3尺 ✕ 6尺(≒ 909mm ✕ 1,818mm)」の大きさのもの。このほか、3尺 ✕ 3尺(≒ 909mm ✕ 909mm)、4尺 ✕ 6尺(≒ 1,212mm ✕ 1,818mm)、6尺 ✕ 6尺(≒ 1,818mm ✕ 1,818mm)などがあります。なお、台の高さ(厚み)は、4寸(≒ 121mm)のものが多いようです。

箱馬は、6寸 ✕ 1尺 ✕ 1尺(≒ 182mm ✕ 303mm ✕ 303mm)、6寸 ✕ 1尺 ✕ 1尺7寸(≒ 182mm ✕ 303mm ✕ 515mm)が一般的なサイズです。

詳しくは、日本音響家協会のページが参考になります。
http://www.seas.or.jp/datafile/yamadai/yamadai.html


録音スタッフが山台(ひな段)を組むことは滅多にありませんが、確認しておきたい要点として次の3つが挙げられます。

1.台の形・高さ ←必要なケーブル長、マイクスタンド高を見積もる際の参考に

2.台の設置位置 ←特にマルチケーブルの敷設経路に関連

3.公演中に移動する台の有無 ←楽器の配置転換時に移動する台はあるか

不明な点は舞台監督に確認します。

参考までに、海外では 4 feet ✕ 4 feet(フォー・バイ・フォー = 1219mm ✕ 1219mm)や、4 ✕ 3(フォー・バイ・スリー = 1219mm ✕ 912mm)といった標準パネルがありますので、AESなど海外の展示会にかかわる場合はフィート換算も覚えておくと便利です。1feet = 30.48cm……もうお気づきですか? 1尺(≒ 30.3cm)と1フィートは、ほぼ同じ長さなんですよ!


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2014/04/02

尺貫法 [ for Students ] 第1回

ライブレコーディング・エンジニアの西沢です。

この4月から、音の業界を目指す学生さん向けに [ for Students ] と題して連載していきます。私も復習のつもりでわかりやすい記事を心がけますので、一緒に勉強していきましょう!

第1回のテーマは【尺貫法】です。

東京スカイツリーは「634m」、靴のサイズは「25.5cm」などと、長さを表すには「メートル法」が一般的ですよね。ところが、日本の舞台演劇・映画業界の一部の伝統的な業種では今でも「尺貫法」が用いられています。

※尺貫法(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%BA%E8%B2%AB%E6%B3%95

業界で主に使われている長さの単位は「間」「尺」「寸」、

これらとメートル法との関係は、

1間 =  6尺 ≒ 1818mm
1尺 = 10寸 ≒  303mm



(昔話で有名な「一寸法師」の身長は、約3cmということになりますね)

さて、では実際にどの様な場面で「尺貫法」を目にするかというと、オペラなどの舞台装置(大道具)の図面やオーケストラの配置図面、舞台上では、「平台」や「箱馬」といった、いわゆる「ひな段」を組む際に使われる道具のサイズなどです(現在では、メートル法にて表記されていることが殆どです)。

1間 ≒ 1818mm なので、さらに大雑把に「1間 = 2m」とすれば、「ここは6間あるから、10mのマイクケーブルだと足りないな……」などと収録のプランを練ることができます。

(続く)


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