2014/11/18

サイデラ・マスタリングでハイレゾマスタリングを体験しよう!(その4)おすすめ作品の紹介

ハイレゾの楽しみ方シリーズの最終回は僕がマスタリングしたおすすめの作品を紹介します。



ひとつは「JiLL-Decoy association / Lining e.p.」です。この作品はKORG社が開発した世界に3台しか存在しないClarityというDSD5.6MHz対応のマルチトラックレコーダーで録音、ミックスした音源です。
ハイレゾの配信が始まったばかりの2012年当時はDSD2.8MHzしか配信できなかったのでDSD5.6MHzの演奏の緊張感、空気感、息遣いをDSD2.8MHzでどうやって表現するかをメンバーと一緒に思考錯誤しました。
最終的に採用したのはラインケーブルと電源ケーブルの選択のみでニュアンスの微調整をする、音色の良さを最大限に活かした色付けのないマスタリングでした。EQやコンプを使えないのでこれだ!という音を見つけるために、音色の違いをメモしながらスタジオのケーブルをほとんどすべて聴き比べたのを覚えています。
まるでCHIHIROさんが目の前で歌っているかのような優しくふわっと広がるボーカルの美しさをぜひ楽しんでください。




もうひとつは「ヲノサトル / ROMANTIC SEASON」です。ヲノさんが提唱しつづけている“ムード・エレクトロ”というサウンドは、ナチュラルで甘いメロディーとキレのあるノイズ融合させた音楽です。この作品は48kHz24bitのwavデータをDSD5.6MHzにアップコンバートしてからアナログEQとコンプでマスタリングしています。アップコンバートすることで音色の繊細なファイナルタッチが可能になります。DSDなら小さな音にもより表現力があります。音が出る瞬間、消え際の余韻までそのまま再現できるんです。今作ではぜひノイズとシンセの響きに注目してください。これだけ粒子の細かい生命力のあるノイズとフレーズの重なりまでわかるシンセの音は44.1kHz16bitのCDフォーマットでは再現が不可能です。

ハイレゾのマスタリングをしていると、ボリュームを確認することがよくあります。演奏の細かいフレーズまで良く聴こえるのでいつもの音量レベルよりも大きく聴こえるんです。
同じような体験をクラッシックのコンサートやJAZZのライブでも体験できます。けっして大きな音ではないのに演奏がすっと入ってきます。

ハイレゾの音はリスナーが自宅にいながらスタジオで聴こえている音や生演奏に近い体験をできることが一番の魅力ですね。
サイデラ・マスタリングではCDのマスタリングのときに手軽にハイレゾの体験をすることができます。ハイレゾのリアリティ溢れる音を是非体験しに来てください!


このシリーズのバックナンバーはこちら→
(その1)「ハイレゾマスタリング、2つのフォーマットで異なるプロセスと仕上がり」
(その2)「CDとハイレゾマスタリングはここが違う!」
(その3)「ハイレゾの楽しみ方」


2014/11/14

サイトウ・キネン・フェスティバル松本/レコーディング舞台裏(最終回)

サイトウ・キネン・フェスティバル松本のレコーディング舞台裏、最終回はサイトウ・キネンの現場ならではのエピソードをご紹介します。

とある曲目でステージ上に所狭しと並んだピアノとオーケストラ。客席側からピアノ、指揮者の順なので、ピアノの蓋に隠れて小澤監督が見えないという事態に……ところが、選りすぐりのステージスタッフによる楽器配置はパズルのような完成度で、すでに動かしようがありませんでした。

そこで、リハーサル中にピアノの蓋を「半開」にしてみるのですが、それはそれで音が犠牲になってしまいます。さてどうしたものかとスタッフ陣が検討を重ねた結果、「指揮者が見えるギリギリのラインまで蓋を開く特注の突上棒」をその場で急遽作ることになったのです。

リハーサルが終わると、舞台袖では調律師さんが本番に向け作業開始、音の響き具合も変わるので、録音のためのマイクロフォン位置もさっそく見直します。リハーサル後に位置を変えているので、技術的リハーサルのない「ぶっつけ本番」での録音は勘と経験(と度胸!)が頼りです。

このように「リハーサルと本番が違う」ことは珍しくありません。状況に合わせて常に臨機応変に動かなければならないわけですが、サイトウ・キネンのスタッフには、この違いを楽しんでいるかの様な雰囲気があります……これはともすると「齋藤秀雄の生き方」が大きく影響しているのかも知れません。

サイトウ・キネンの公式ホームページに、こんな一文があります。

――齋藤秀雄は、近衛秀麿に随伴して渡独、約半年をベルリンですごしたあと、近衛と別れてライプチヒに移り、そこの王立音楽学校に入学、クレンゲル教授に師事することになった。(中略)齋藤秀雄は、クレンゲル校訂の楽譜で練習し、それを携えて教室に赴いた。ところがクレンゲル教授は、「この曲の指使いは私が指示したのよりも、カザルスの方がずっといい。(中略)」と述べて、自分の指使いを消してカザルスのを書きこんでくれた。(中略)――そして、自分の信条をもちながら、よりよいものを求めて、あえてそれを修整する姿勢は、教育の場における齋藤秀雄の後半生の生き方の中にも、いつしか移し植えられていたのであった。(引用おわり)
 (リンク)http://www.saito-kinen.com/about/hideosaito


サイトウ・キネンの現場はまるで “生き物” のように、つねに「よりよいもの」を求めて日夜変化しつづけています。だからこそ、一ヶ月間にも及ぶ音楽祭でありながら、日々新しい発見があるのでしょうね。


さて、私事ですが、長野県へ移住することとなりました。サイトウ・キネン・フェスティバル松本(セイジオザワ松本フェスティバル)をはじめ、長野には軽井沢国際音楽祭や木曽音楽祭、NAGANO国際音楽祭などといったすばらしい音楽文化があります。長野県はもちろん、日本全国からの録音のご依頼、お待ちしています♪


2014/11/10

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その3)


あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その3)
「一番好まれているのは緊張感ですね。「再生した時の空気感が」って言っていただけるので、狙い通りです」
インタビュアー: Mush(Saidera Mastering)

作曲家TommyTommyさんとヴォイスアーティスト赤い日ル女(あかいひるめ)さんのユニット「あうん」。1stアルバム「ときはなつ」を2014年夏にリリースしました。今回は、サイデラ・マスタリングでDSDマスタリングを体験したお二人に、それぞれの音楽観からアルバム制作の裏側まで、幅広くお話をうかがいました。

(その1)はこちら→http://saideramastering.blogspot.jp/2014/10/dsd-1.html
(その2)はこちら→http://saideramastering.blogspot.jp/2014/11/dsd-2.html

TommyTommy:各曲3テイクくらいずつ録音したかな?これジャズの人たちとやり方が似てるんですよね。ジャズ界の方からは「音楽性が面白い」とか「実験的なことをやっているんだけど聴けてしまう不思議さがあるね」とか言っていただけて。でも一番好まれているのは緊張感ですね。「再生した時の空気感が」って言っていただけるので、それは伝わっているというか、狙い通りです。森崎さんとはこれまでも何度か一緒に仕事をやらせてもらいましたが、作業の流れとか、コミュニケーションの仕方とか。つまりどれもがセッションで、そうやってできあがったものはやっぱりいいんです。
あとは今作「ときはなつ」はぼく自身がミックスしましたが、自分がもう無理だなっていうところまでやりきったミックスがマスタリングでさらにどうなるのかがやってみたかった。DSDマスタリングでやったのは狙い通りでした。DSDについては確信がもてるようになったのは現場にきてからでしたが。プラグインも使えないですからね。でもサイデラ・マスタリングのモニターで聴いて、「めちゃくちゃいいじゃないか!」と思って。

Photo by 加奈枝


Mush:マスタリング前後の比較の印象は?

TommyTommy:線画で書いた2Dのアニメーションが3Dになったというか。奥が本当にできてきて。特にノイズ音楽とかって空気の中に塵が舞っているのが光の加減で綺麗に見えるなあみたいな、そういうものだとも思っているので。細かな塵にまで光が差し込んだというかそういう印象がありました。

赤い日ル女:レコーディングしているときから音のイメージはあったんです。ただ、曲って、生まれた瞬間から、わたしとは別の意思をもって育ってゆくので。たとえば、わたしはこうしたいけど、この子にとってかっこいいかどうかは、また別で。だから、ちゃんと音をきいて決めようと思ってました。マスタリングをしていただいた日の最初に、PCMとDSDをきき比べて、それで、DSDに決めました。確信をもって、もう説明なんてなしに、よい!と言える作品になったと思います。

Photo by 加奈枝


Mush:次作についてはなにかお考えですか?

TommyTommy:いま、曲を書きつつ、まだ全体像が見えないのでどうなるかはわからないですけれども。今度はDSDレコーディングでつくりたいなあ、と思っています。やることは今作とかわらないですからね。そして、皆さんもチャンスがあればDSDマスタリングを体験するといいなぁと思います。耳がすごいチューニングされるというかそういう実感がありました。自分が出した音で聴き比べるとこうなるんだっていうのが明確になるので。


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あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その1)
http://saideramastering.blogspot.jp/2014/10/dsd-1.html

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その2)
http://saideramastering.blogspot.jp/2014/11/dsd-2.html

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その3)
http://saideramastering.blogspot.jp/2014/11/dsd-3.html


アーティスト名:あうん
CD名:ときはなつ
定価:1,500円(税抜き)

<収録曲>
なにもないせかい
しろいからすのうた
ときはなつ
きゅーあい
なにもないせかい(Remix by Carl Stone) 

※お問い合わせはahumuha@gmail.comまで

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今後のライブ予定

11月11日(火)白楽 Bitches Brew
     24日(月・祝)渋谷 GUILTY
     25日(火)新宿 OREBAKO
     26日(水)横浜 GALAXY

12月 11日(木)新宿 OREBAKO
      23日(火・祝)白楽 Bitches Brew

お問い合わせ/ライブオファー/ご予約は:ahumuha@gmail.com
blog:http://ahumuha.blogspot.jp/ 


2014/11/07

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その2)

Photo by 阿部 章仁

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを体験して 特別インタビュー (その2)
「お金をかけていい機材を使ってノイズが全くない音が「いい音」ではない」
インタビュアー: Mush(Saidera Mastering)


作曲家TommyTommyさんとヴォイスアーティスト赤い日ル女(あかいひるめ)さんのユニット「あうん」。1stアルバム「ときはなつ」を2014年夏にリリースしました。今回は、サイデラ・マスタリングでDSDマスタリングを体験したお二人に、それぞれの音楽観からアルバム制作の裏側まで、幅広くお話をうかがいました。

(その1)はこちらから→http://saideramastering.blogspot.jp/2014/10/dsd-1.html


Mush:ラップトップをやめて、一発録りにして、DSDでやるっていうのは全て繋がっているように感じました。TommyTommyさんのこだわりというか、イメージされていたものがすごく伝わってきます。ぼくとTommyTommyさんとの出会いはサラウンド寺子屋塾でしたね。

TommyTommy:同じ場にセイゲンさんもいました。実はセイゲンさんの作品にも今回のアルバムで参考にした曲があります。その頃からの蓄積が形になっているとは思います。DSDって何?高音質って何?ということにはじまって。「いい音」って、お金をかけていい機材を使ってノイズが全くない音が「いい音」ではないと思いました。そういうことを学んできて、それがこのユニットで活きていると思います。録音もライブ一発録音だったので、よく聴くと外のカラスの音がそのまんま入っているところがあったり(笑)。ノイズ除去を細かくやった曲もあれば、緊張感や空気感が消えてしまうなと思ったものについてはノイズをそのまま残すという判断にしました。

Photo by 阿部 章仁


Mush:それはまさにTommyTommyさんの考える「いい音」とは、ということですね。

TommyTommy:オーバーダビングはほとんどしていません。ちょっとボーカルをループさせたりしたくらいで。ライブでできることしかやりませんでした。日ル女さんが「歌い直したい」って言っても、断りました(笑)。

Mush:日ル女さんは一発で録るよと言われたときはどう思いましたか?

赤い日ル女:一発録りというのは、わたしの中にもあって。それは、セッションやライブを重ねるうちに、緊張感とか気持ちよさとか、ぐわってくるものを、わたし自身、一番感じられるのが、TommyTommyさんと、せいの!であわせたセッションだったので。そういう「生」を、作品にしたかったんです。



Photo by 阿部 章仁


TommyTommy:ぼくの中に、やるにあたってコンセプトに合っていたらNGは出さないというのがありました。例えばレコーディング本番で日ル女さんが、リハでも一回もやったことないものをいきなりぶち込んできたりするんですよ!急に!(笑)。

赤い日ル女:ありましたね、そういえば!録っていて、思いついて、やりました。

Mush:全体の構想みたいなものはありつつも即興の要素もしっかりあったと。

TommyTommy: 即興に関して言えば、大まかなあらすじは決まっているんですが、例えば、赤ずきんちゃんで、 「あれ?今日は、おばあちゃん食われるのちょっと早いな」とか、 「おや?今日は、おばあちゃんの食われる描写がちょっとエグいな…。」みたいな。

赤い日ル女: わたしたちの音楽には、物語のあらすじはきまってるけど、毎回話し方がちがう、というおもしろさがあります。ライブもまさにそんな感じで。その中の一つが、このCDに録音されています。

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その1)
http://saideramastering.blogspot.jp/2014/10/dsd-1.html

あうん「ときはなつ」DSDマスタリングを終えて 特別インタビュー (その3)
http://saideramastering.blogspot.jp/2014/11/dsd-3.html

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アーティスト名:あうん
CD名:ときはなつ
定価:1,500円(税抜き)

<収録曲>
なにもないせかい
しろいからすのうた
ときはなつ
きゅーあい
なにもないせかい(Remix by Carl Stone) 

※お問い合わせはahumuha@gmail.comまで

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今後のライブ予定

11月11日(火)白楽 Bitches Brew
     24日(月・祝)渋谷 GUILTY
     25日(火)新宿 OREBAKO
     26日(水)横浜 GALAXY

12月 11日(木)新宿 OREBAKO
      23日(火・祝)白楽 Bitches Brew

お問い合わせ/ライブオファー/ご予約は:ahumuha@gmail.com
blog:http://ahumuha.blogspot.jp/ 


2014/11/06

サイトウ・キネン・フェスティバル松本/レコーディング舞台裏(その2)

前回からサイトウ・キネン・フェスティバル松本のレコーディング舞台裏についてご紹介しています。

(その1)はこちら→http://saideramastering.blogspot.jp/2014/10/blog-post_14.html

サイトウ・キネンの大きな魅力のひとつは、いわゆる常設のオーケストラとは違って、フェスティバルのためだけに一流の演奏家が世界各国から一堂に会すること。本番はもちろんですが、リハーサルにも独特の雰囲気があります。世界最高峰のメンバーが集まるだけあって、普段は一緒に演奏していないにもかかわらずリハーサル一発目から素晴らしい演奏! このリハーサルも可能な限り記録として録音するわけですが、本番に向けて高みを目指す音楽家の中には

「今のリハーサルの録音、CDで欲しい!」

とおっしゃる方も。録音チームも心得ていて、複数のマイクロフォンを使用するマルチ・マイクのやり方であってもリアルタイムでCDにダイレクトミックス(いわゆる “一発録り” )しているので、リハーサル終了後すぐに音源をお渡しすることができるのです。

この一発録り、特にリハーサルはテスト録音もできないので「ぶっつけ本番」。そんな状況でも即座にCDにまとめ上げる録音技術は、豊富な経験あってのもの。前回ご紹介した「エヌ・アンド・エフ」のバランス・エンジニア福井氏はクラシック一発録りの名手で、私の録音技術も氏から大いに影響を受けています。そして何より、素晴らしい生の演奏と、その録音の結果を即座に現場で聴き比べられるので、私の耳のバランス感覚は、サイトウ・キネンに育てられたといっても過言ではありません。

また、マルチ・トラックで個々の音を「収録」するのではなく、生き生きとした演奏をリアルタイムでまとめあげCDに閉じ込めることによって、脈々と続くサイトウ・キネンという舞台で繰り広げられる珠玉の演奏の数々を「歴史」として残すことができるのもレコーディングの醍醐味ですね!