2013/04/26

ケーブルの接続を間違えないために


本日はケーブルの接続を間違えないためのアドバイス。

マスタリングにおいて、ケーブルの結線ミスは絶対にあってはいけません。LRが逆に録音されては大事故です。サイデラ・マスタリングのケーブルは基本的にステレオペアになっていて、青/赤のラベルをつけています。そして先番=Lが青、後番=Rというのがルールです。機材側のコネクタにも同様にラベルをつけています。これをやっておくとなにも考えなくても視覚的な確認が入るため、結線の際にLRを絶対に間違えません。

このラベル付け(あるいはケーブルそのものの色が分かれていることもあります)ルールはスタジオよりけりで、僕がアシスタント時代を過ごした音響ハウスでは基本的に暖色が先番でした。例えば、
赤:キック(オン)
オレンジ:キック(オフ)
黄色:ハイハット
緑:スネア(表)
青:スネア(裏)
タムはハイ・ローの順でコンソールに立ち上げるのか、ロー・ハイの順なのかで使い分けます。

そして気がついたでしょうか?サイデラ・マスタリングと音響ハウスはルールが間逆なんです!これに慣れるのには半年ぐらいかかりました。ケーブルの抜き差しを頻繁に行う方はぜひ、ラベル付けを行なってください。

2013/04/25

マッシュのコーヒー学(その1)「イントロダクション」


どうもMushです!みなさんコーヒーはおすきですか?ぼくは結構好きです。ちなみに森崎はあまり飲みません。オノは大好き。

「酸味のあるのとないのどちらがお好みで?」「マイルドなのがいいですね」「ナッツのような香りはいかがでしょうか」「いいですね。クルミのような」「お客様のお好みのコーヒーはこちらです」などといった会話があるのかは定かでありませんが、近所のコーヒー豆屋さんでこんなポスターを発見しました。

「Specialty Coffee Association of America(SCAA)」というところが発行しているらしいこの、コーヒーの味と香りをおおまかに体系化した図に、どうもピンときました。この図にあるように一口に「酸味」「苦味」「ナッツのような」「フルーティな」とか言っても、色々あるんですよね。そのニュアンスってすごく伝えづらいのです。(ちなみにサイデラ・マスタリングのインターンシップではコーヒーの味を競うのが伝統で、手前味噌ですがいまでは手挽き豆+ハンドドリップで淹れているコーヒーが大変好評です!)

一杯のコーヒーでも、淹れていると音作りと実におもしろい繋がりがあることに気がつきます。これから何度かに分けて「マッシュのコーヒー学」をお届けします!みなさんもサイデラコーヒー飲みにきてくださーい!


2013/04/24

無意識に聞き分ける音楽家

今日は、過去の面白い経験談をひとつ…。

コンサートホールで室内楽等を録音する時は、専用の録音室を利用したり楽屋に録音室を仮設することもありますが、舞台袖(ステージ横にある、客席からは見えない空間)に機材を設置することがほとんどです。演奏者の方々とのコミュニケーションもとりやすいですし、何より移動距離が短いのでセットアップ・ダウンが早いのです。ただ、舞台袖では、実際の演奏音とスピーカー/ヘッドフォンから聞こえる音とが混じって聞こえてしまうのが難点…。念のため我々技術者は、演奏者の休憩中に “今さっきの録音” を舞台袖で再生確認しています。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題。上記の理由から舞台袖でプレイバック(再生)していると、休憩中のはずの奏者が慌てた様子でステージに戻ってきたことがありました。理由を訊ねると「もう、休憩が終わって演奏が始まったのかと思って…。」とのこと(後に「休んでいるはずの自分も演奏していた」と大笑い)。

現在、録音には DSDレコーダー KORG MR-2000S を愛用しています。DSDの音は音楽家の耳をも欺くほどの生々しさを持っているのでしょう。実際、PCM(CD等で採用されている変調方式)録音の時はプレイバックと生演奏を間違える方には出会いませんでした。

DSD と PCM の音を無意識に聞き分ける音楽家の耳、恐るべし!

D どうです?
S してみたくなったでしょう?
D DSDレコーディング!



2013/04/17

理想の写真を撮るために


録音の世界には、「ワンポイント」か「マルチ・マイク」かという論争があります。論争は言い過ぎですけれど、つまりはどちらの方法が良いのか、ということです。「ワンポイント」というのは、演奏空間のとある場所に1基のマイクロフォンを設置する方法。「マルチ・マイク」は、全体を捉えるメイン・マイクロフォンの他、例えば各楽器にマイクロフォンを設置し、それらをミックスします。

…でもこれは制作側のお話。リスナーにとっては、どうでもいいことですよね。私も、「結果よければどっちでもOK!」と思ってます。大切なのはマイクロフォンが多いか少ないかではなく、「音楽のバランス」と「音響のバランス」の両立にあるのです。

一般的に「ワンポイント」はマイクロフォンが少ない分、音の濁りも少なく、音響バランスに優れていると言われます。しかし、優れた音楽バランスを得るためには、ここぞという場所にマイクロフォンを設置しなければなりません。ともすると私は、「すみません、頭上にマイクを置かせてください」などとS席に座っているお客様にお願いしなくては…。ライブでは、なかなかこうは行きませんよね。

“ここぞという場所” は非常に限定されます。「ワンポイント」の難しさ(そして面白さ)は、例えばこんな写真が撮影できるポイントを演奏会場の中から探し出すことにも似ています。



「マルチ・マイク」は、マイクロフォンの本数が増えすぎると音も濁り扱いが難しいのですが、ある程度の本数ならば音楽のバランスを整えるのにとても有効な手段です。ダイヤモンド富士の写真で説明するならば、レンズを交換して理想の画角を追求したり、マイクロフォンの特性を利用して雲を目立たなくしたりできるのが「マルチ・マイク」ですね。

サイデラ・レコードのDSDライブレコーディングは、2chダイレクトから8ch、16ch、それ以上にも対応します。

2013/04/16

スタジオの電源入れ


本日はスタジオの電源入れについて。

僕は20年ほど前に銀座の老舗スタジオ、音響ハウスでキャリアをスタートしました。実はこの時はマスタリングではなくレコーディングセクションに配属されていたんですよ。そこで最初に覚えた仕事が電源入れです。音響ハウスにはリズム録りができる1スタ、2スタ、ダビングやTD用の3スタ、6スタがありました。新人は朝の9時前に出社して9:30頃までに全スタジオの電源を入れなければならないのでスピードと正確さが必要です。

電源入れのポイントは3つ。
1.信号の流れる順番に
2.動線に沿って手際よく
3.確実に

スタジオに着いたら作業伝票を見てそれぞれのスタジオでどんなセッションが行なわれるのか(リズム録り、TD、ダビングなど)を確認します。それから一番最初にセッションがスタートするスタジオから電源を入れていきます。電源は機材の信号の流れに従い入れていきます。一筆書きのような美しい動線で入れていかないと先輩に怒られました。一番最初に主幹という大元の電源を入れます。音響ハウスは100Vと117Vの2つに分かれていました。この時プロテクション・スイッチ(過大入力があった時に動作するブレーカーのようなスイッチ)が押されているかを確認する。それからテープ・レコーダーの電源を入れます。僕がスタジオに入りたての頃はPro Toolsはなく、使用していたのはSONY PCM-3348(48chのデジタル・マルチトラックレコーダー)とSTUDER A820(24chのアナログ・マルチトラックレコーダー)です。トラックダウンが行なわれるスタジオでは 2ch仕様の STUDER A820の電源も入れます。同時にコピー用のカセットデッキ、MDデッキ、DATの電源も入れていきます。次にミキシングコンソールの電源を入れ、最後にパワーアンプの電源を入れます。当時の音響ハウスのミキシングコンソールは全てSSL製で、1スタが9000J、2スタ3スタが4000G、6スタが4000G+でした。ミキシングコンソールは本体とコンピューター用の2つの電源に分かれていました。パワーアンプはラージモニター用とスモールモニター用の2種類ありました。特にラージモニターはマルチアンプドライブ(ウーハー、スコーカー、ツイーターを別々のアンプで駆動する)だったので複数台のアンプの電源を入れないといけません。

片手にハンディーモップを持ち掃除しながら電源を入れるのが音響ハウス流です。電源を入れながらテープ・レコーダーのロケーターや機材のパネル面、ミキシングコンソールのモジュールの埃をはらいます。コンソールの掃除は特に注意が必要でパッチ盤の穴に埃が入らないようにパッチ盤のある方からない方に向かって埃をはらっていきます。埃をはらいながらつまみを定位置に戻して、最後に回線確認を行います。オシレーターから信号を出してLRのスピーカーから音が出ているか、接続の間違いがないか確認をして終了です。もし音が出なかった場合はまず予備のスピーカーと交換。それ以外の不具合があればメンテナンス・エンジニアに報告して作業前に修理をします。机の引き出しを見て備品を補充したり鉛筆を削るのも電源入れの時に行ないました。

新人の頃は流れ作業で入れていた電源も2年目、3年目となると仕事の先読みが出きるようになります。セッションの内容、エンジニアやアシスタントの癖によって必要な機材やマイクを運んだりプラスアルファの準備ができるようになります。「Aさんはこのマイクを使うので運んでおこう」とか、「1スタはストリングスのダビングが有るから方耳のイヤホンと鉛筆が多めに必要かな」など。しかし大変だったことは新人が入ってくるまでは一番下のアシスタントが電源を入れなければいけないことでした。朝までのセッションでも9時には電源を入れなければいけないので寝る時間は3時間を切ることもありましたが、やっと任された仕事だと思って頑張りましたね。

レコーディング・スタジオに入社した新人の皆さんはこれからまずは一人で電源入れを任されると思いますがぜひこの3つのポイントを頭に入れて頑張ってください!


2013/04/15

DSD Field Recording:MUSHのDSD録音記(その4)「岩手県陸前高田市のしずかな波」


どうもMushです!

これはDSD録音ではないんですが、もう3年も前になりましたが、岩手県陸前高田市の海岸で録音した波の音です。天候は雨がぱらつく直前で波も少し荒れ模様だったのですが、波音は妙に落ち着く静かな印象がありました。後方に防砂林があって、サラウンドで聴くと波音が反射しているのがわかるんですよ。


2013/04/11

Q&A(その3)ミックスは何に落とせば(ミックスダウンすれば)いいでしょう?素材の特徴や注意点など教えて下さい。


1.DSDレコーダー KORG MR-2000S
2013年現在、入手できる最高音質のマスターレコーダーです。「何にレコーディングしますか?」「何にミキシングしますか?」という問いには迷うことなく推奨します。DSD 5.6MHz/2.8MHz。コンソールのアウトを素直にそのまま録音できるのがいちばんの魅力だと思います。

2.アナログテープ(1/4インチ、ハーフインチ)
音像が大きく、パワー感が必要な場合、他のメディアに比べアナログが有利です。スピードと切れ、艶、暖かみ。太さと透明感を兼ね備えたサウンドは、ポップスやロック、R&Bなどでは、最高のメディアであることは間違いありません。
※100Hz/1kHz/10kHzのリファレンストーンは必ず録音してください。できれば15kHz、50Hzも録音してください。

3.オーディオデータ(WAV/AIFF)
Pro Tools他DAWで作業が完結する場合、24ビット/44.1kHzまたは48kHz以上のデータ。低音の処理のことを考えると16ビットより24ビットを奨めます。16ビットではキックの音、ベースの音が若干硬めになります。24ビットでは特にR&Bなどで聴かれる柔らかく伸びのある低域などは、よりイメージに近いサウンド作りができます。    
※88.2kHz、96kHz以上のハイサンプリングのマスターは、レンジは広いですがその分高域のピークの成分が多いため、音量がどうしても必要という方は24ビット/44.1kHzまたは48kHzを推薦します。

4.DAT
最近ではめっきり数が減ってしまいました。SSL、NEVEの卓やアウトボードを使用してミックスする場合、DAWのバウンスデータとは違った、まとまりと芯のあるDAT特有のサウンドになります。 
※必ずリファレンストーンを録音してください。DATの場合テープ頭はエラーが多いのでプログラムの録音はABS2:00から。そしてテープエラーのことを考え、必ずバックアップのサブマスターを作成してください。
ABS0:00からABS1:00までRECミュート
ABS1:00~ABS1:30までリファレンストーン(1kHz)
ABS1:30~ABS2:00までRECミュート
ABS2:00~プログラムスタート

※※リファレンストーンが必要な理由は
録音時と再生時にリファレンストーンを元に調整を行わないと、録音された音楽を正しく再生することができません。またサウンド面では、LRのレベルをきちんと調整することでボーカル、キック、スネアなどセンター成分の定位がきちんと決まります。


2013/04/10

どう? すばらしい でしょう?


サイデラは、マスタリングスタジオなのに、どうしてレコーディング・エンジニアの私が記事を書いているのでしょうか?

それは、暇だからです。

冗談です。

サイデラは、1999年からDSDレコーディングを行なっているんです!↓↓↓ ホームページにも、ちゃんと書いてありますよ ↓↓↓


私のライブレコーディングの原点は、所属していた吹奏楽部の演奏を録音したことにあります。それを部員に配ったりすると、みんな喜んでくれたわけです。...今もやっていることは、そんなに変わりません。

いい音楽を最高の状態でお届けしたい!それにはやっぱり、DSDレコーディング。

D どう?
S すばらしい
D でしょう?

2013/04/09

アナログ・テープの時代(その1)「テープのトランスポート」




ここ数日、20年以上前のアナログテープからリマスタリングの作業を行っています。厚み、艶のあるサウンドはやっぱり素晴らしいですがそれ以上に感動するのはミュージシャンやエンジニアがサウンドに込めた「限られたテイクの中で最高のものを残す」という気迫が伝わってくること。今は何テイクも何チャンネルも無限に録れる時代ですが、当時のエンジニアの意識を忘れてはいけません。

僕が音響ハウスで仕事をしていた当時はリズム録りなど、特にバンドの録音では24chのアナログ・マルチテープレコーダーが使われていました。2インチのアナログマルチはテープ自体の重さがなんと約5キロ。それを76cm/sのテープスピードで回すとたった15分しか録音できません。さらに再生時のテープ調整のためのリファレンス・トーン(1kHz、10kHz、100Hz)をそれぞれ30秒ずつ録音すると収録時間は正味13分ちょっとです。リズム録りのセッションでは1本のテープに2テイクずつ録音していくことが主流でした(1テイクOKというのもたまにありましたが)。つまりアルバム10曲のレコーディングではアナログテープは10本前後必要になるんです。アシスタント・エンジニアは総重量50キロにもなるテープたちを台車でリズム録りのスタジオからトラックダウンするスタジオに運びました。

トラックダウンもJ-POPやロックなどは2chのアナログ・ハーフインチテープに録音していきます。1本に2テイク、歌入り、インストを録っていきます。テープ節約のためにインストはDATのテープに録って、なんてこともありました。

いよいよトラックダウンが終了してテープのピックアップの時、A&Rは大仕事です。2インチ・アナログマルチ10本と、ハーフインチ・アナログテープの大移動です!台車でスタジオのロビーまで下ろしてそこから車やタクシー移動。どうしても電車に乗る必要がある時や海外でマスタリングする場合には磁気に触れないようにテープ一本ずつアルミホイルで巻いて梱包しました。

ポケットにUSBメモリを入れてマスタリング・スタジオに向かうなんて当時は全く考えられないことでした。ただ時代は変わってもマスターテープ(データ)の重要性は変わりません。これからもみなさんがマスターに込めた気迫に応えるマスタリングをしていきたいですね。


2013/04/08

DSD Field Recording:MUSHのDSD録音記(その3)「暴風雨の過ぎ去ったあと」



どうもMushです!

いやはや、先週末の暴風雨はすごかった...。その迫力をDSD録音でとらえてきました☆
的な書き出しでこのブログを予定していたのですが、タイトルの通り"NOT" heavy rain。なんとレコーダーを回そうとした直前に雨の勢いは一気におさまり、ぼくの計画を狂わせたのです。

フィールドレコーディングで一番大切なことは、「その場に行って、録音を回すこと」。高尾山の野鳥の声を録りたかったらそこに行くしかないし、行ったのにレコーダーのバッテリーが切れていては何も残りません。そういう意味で今回二つ失敗がありました。一つは前述のとおり録音を回すまえに雨が弱まってしまったこと。そしてもう一つは、たった一回だけなのですがそのとき大きな雷が鳴ったのです。それを取り逃がしてしまった!まあそういう緊張感というか自然との勝負みたいなところがフィールドレコーディングの醍醐味の一つでもあるのですが。

今回は雨が題材ですが、「水」系の録音は総じて難易度が高い!この録音はあるマンションの駐車場の屋根を雨よけにお借りして録ったのですが、アスファルトを打ちつけるパチパチというパルス系の水音と、もう少し遠くで小さく鳴っている柔らかい雨音。そして排水口を流れる小川のような水音。3つの水のレイヤーを意識したサウンドにしました。


2013/04/04

Q&A(その2)はじめてのレコーディングなんですが、マスタリングは必要ですか?

Q2: はじめてのレコーディングなんですが、マスタリングは必要ですか?

A: マスタリングは必要なプロセスです。音楽をどのようにリスナーに伝えるか?録音制作の最終的な仕上げがマスタリングです。そしてマスタリングというと音作りの面だけにとらわれがちですがCDプレスマスターあるいは配信用マスターの品質管理の第一歩であるとても重要な行程です。

自宅録音から自主制作したCDと、一般に売られているCDを聞き比べてみて「音量やサウンドのクオリティーが全く違う」と感じたことはありませんか?もちろんミックスマスターのクオリティも作品の仕上がりに大きく作用しますが、そのミックスマスターから作品(商品としてのCDや配信楽曲)への最終的な音のクオリティを決定付けるのがマスタリングです。かつて「限界まで音量を大きくする」ことばかりがマスタリングに求められたことがありましたが、「よりダイナミックレンジを広く感じるように奥行ある仕上がりにしてほしい」「アナログ感を付加してほしい」「歪むことなく音量を大きくしてほしい」など現在はマスタリングに求められることはさまざまで、クライアントとコミュニケーションを取りながらの音作りがより重要になってきました。

マスタリングは女性のメイクと同じように、正しい方法で行えばサウンドをより魅力的に生き生きと躍動感のあるものにすることが出来ます。メイクもTPOによって方法が違うように、マスタリングもジャンルによってさまざまな方法があります。自分たちのCDを、カッコイイ、印象的なサウンドに仕上げるために、マスタリングは欠かすことのできない行程なのです。