2010/03/30

音の厚みを表現する(その3)「様々なニュアンスをEQで」


本日はEQで色々なニュアンスを表現するテクニックをお話しします。

「アナログ感」とは中低域の厚みと倍音、耳に心地よい歪みだと僕は思います。これらをデジタルで表現するには120Hzと1.2kHzがポイントです。この帯域を少し強調することで厚みと切れのある低音を作ることが出来ます。

4kHz~8kHz辺りを強調するとヴォ-カルに「艶」をプラスすることが出来ます。また子音が強く聴こえる時にはこの帯域を少し抑えることで対策出来ます。この時Qは狭くして下さい。広くすると声の基本成分まで影響してしまいます。

「透明感」のあるキックの音にするには20Hz~30Hzの超低域をほんの少し強調します。キックのアタック成分を弱めるには50Hz~80Hz辺を少しだけ抑えます。

サウンド全体に「エアー感」が必要な時には10kHz辺からシェルビングEQで持ち上げます。中域の密度を上げたい時にはシェルビングEQで抑えるのが良いでしょう。

EQはどの帯域もブーストとカットで陰陽の関係があります。サウンドを良く聴き最小限の補正でバランスを整えるとオリジナルミックスのサウンドを生かしたままニュアンスを表現すことが可能です。

2010/03/29

MOON KANA/MOON DRAGON

こんにちは。ブッキングの石河です。

先日、MOON KANA/MOON DRAGONのマスタリングがありました。アメリカでもヨーロッパでも大人気の彼女の新譜は4月20日発売です。(HPで先行発売中

発売記念ライブは4月2日 アメリカ・ロサンゼルスで行われます。
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5.6MHz DSD Mixing by Masami Sakaide
5.6MHz DSD Mastering by Seigen Ono

ミックスを担当されたのはヒカシューのベース坂出さん。ヒカシュー/1978も好評発売中です。

2010/03/25

EQ2段がけ(その3)「応用編」

本日はEQ2段がけの応用をお話しします。周波数帯域を大きく4つに分けて考えてみてください。下の分け方、考え方は僕の個人的な見解です。

1.20Hz~100Hz→部屋の響き、低域の空気感を表現
2.100Hz~1kHz→楽器自体の響き、音の厚み、暖かさ、ふくよかさを表現
3.1kHzから10kHz→音の芯、輝き、艶を表現
4.10kHz~20kHz→倍音、高域の空気感を表現

EQ2段がけの使いこなしのポイントは、隣同士の周波数が重ならないように凹凸のあるカーブにすることです。僕はEQ2台で処理する場合は1台目で(1)20Hz~100Hz、(2)1Hzから10kHzを、2台目で(3)100Hz~1kHz、(4)10kHz~20kHzの帯域をコントロールしています。(本当は3段、アナログEQを使用する場合は4段階でコントロールしているのですが)このように使い分けることで帯域の重なりを最小限にするだけではなく、周波数全般、あらゆる音のニュアンスを緻密にコントロールすることが出来ます。

2010/03/24

MR-2000Sを使ってみよう!(その7)「置き方で変わるサウンド」

MR-2000Sを使いこなしのポイントは置き方です。ラックマウントにするのか直置きにするのか2つの選択がありますが、僕は直置きで使っています。

その方がより自然なサウンドを再生することが出来ますので。置き方は市販のインシュレーターなどは使わずに30㎜のバーチ合板の上に置いています。ラックの板が薄い場合は60㎝×45㎝、厚さ21㎜ほどのバーチ合板やシナ合板を敷くとサウンドが安定します。

最近ではスパイク型のインシュレーターも増えていますが、このインシュレーターを使うと機材に伝わる振動を切るには向いていますが、サウンドがドンシャリ傾向になりやすくレンジが広いDSDには向きません。使うのであれば円柱型の鉛のインシュレーターなど、中域の密度が上がるタイプとの組み合わせが良いです。鉛のインシュレーターも上下に1㎜厚のゴムシートを貼ると金属特有のピークを抑えることが出来ます。

また、大理石のボードなど硬質の材料の上に置く場合は、大理石のボードを3㎜厚ほどのゴムシート、コルクシートなどを5㎝角に切り、それぞれの4隅とボードの真ん中の5点置きにすることをお薦めします。ボードを浮かすことで振動を抑える効果とゴムやコルクを挟むことで、サウンドをナチュラルにする2つの効果があります。ゴムとコルクはサウンドが異なりますのでお好みで選択して下さい。インシュレーターの置き方は、前2点後ろ1点の3点置きが一番低音が出ますが、ガッツがある低音を出すには5点がベストです。

ラックマウントする場合、ネジを4本使う場合と下側のみ2本使う場合ではサウンドが異なります。レンジと奥行を出すには下側2本止め、まとまりが合ってガッツのあるサウンドには4本止めが良いですよ。(これらは全ての機材で応用出来ます)

2010/03/23

低域の処理(その3)「超低域の確認」 

本日は低域のコントロールについて。

VUメーターはすごく振れているのに音圧感がない。これは人間の耳にはほとんど音として認識されない超低域成分でVUメータが振れているだけで、キックやベースの基本成分が足らない時に起きる現象です。

原因は、
(1)超低域成分の多い音源を選択している。
(2)キック、ベースで、同じ帯域を強調している。
(3)キック、ベースで、ある特定の音域が共鳴している。

マスタリングでの対策は
・キックのみならローカット(ハイパス)フィルターをかける。
・マルチバンドコンプ等で帯域を区切りレベルを下げてみる。

多くの場合はこの二つで解決出来ます。もしベースが原因ならシェルビングEQでその帯域を見つけ下げる必要があります。

ハイパスフィルターの帯域は20Hz~40Hz辺り。
マルチバンドコンプで下げる帯域は80Hz~160Hz以下。
ベースの帯域は25Hz~100Hz辺り。

音の密度が上がりVU計の振れが下がっていればOKです。ヘッドフォン、ラジカセでも低音の鳴りが改善され、聴きやすくなっているはずです。

2010/03/19

MR-2000Sを使ってみよう!(その6)「MR-2000S+DJ」

チーフ・エンジニアの森崎です。

「EMMA HOUSE 18」の音源はEMMAさんのMR-2000S(WSD5.6MHz)で持ち込まれました。以前「MR-2000Sを使ってみよう!その3」で書きましたが
『MR-2000Sにはピンの入力、出力が付いているのでUREI1620の出力をそのまま録音出来る』
『この方法だとDJがマスタリングスタジオでプレイしてそのままマスタリングしたかのような、昔のダイレクトカッティングのようなことが可能』

この二つを実際に体験することが出来ました。WSD5.6MHzのサウンドはプラスもマイナスもないそのままのサウンドなのでDJの細かなプレイを余すことなく録音出来ます。音源のプレバックを聴いて最初に感じたことはEMMAさんのボリューム感、つなぎのテクニック、グルーヴがダイレクトに伝わる。そして暖かくファットで抜ける低域でした。

上記の二つの要素をなんとかしてCDに入れてみたいという気持ちでマスタリングしました。音量をギリギリまで入れるというサウンドではなく、ヘッドルームを生かして曲ごとの音量感、ダイナミックスを生かした音作りです。ぜひ、沢山の方に聴いて頂きたいですね。

2010/03/16

サイデラ・モーニングセッション#010終了しました!

どうもMUSHです!
サイデラ・モーニングセッション#010終了です!
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今回はテーマが「ハンディ4chレコーダーZOOM H2での制作の可能性をさぐる」ということで、ZOOM H2でレコーディングした音の試聴と、キングクリムゾン「クリムゾンキングの宮殿」(サイデラ・モーニングセッション#002でも試聴しました)を再生してそれをH2で録音、再生してオリジナルと比較ということをしました!
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↑変換ネジを用いてマイクスタンドにマウント
ZOOM H2はフロントが90°のXYステレオ、リアが120°のXYステレオの4ch録音が可能なハンディレコーダーですが、この「小さな巨人」の内蔵マイクの特性や定位感の特徴が見えてきました!ポケットサイズを活かした制作やさらにH2でサラウンドPodcast配信などをテーマに再度開催したいと思います!
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↑波の音を収音。後方に防砂林があり音が反射してきます。

次回のサイデラ・モーニングセッション #011は2010年3月25日(木)開催予定です!

終了しました。

サイデラ・マスタリングの「サイデラ・モーニングセッション」
主宰:SDP サラウンド戦略推進室 担当F.P. MUSH
・サラウンドを体験、研究してみたい方ならどなたでもお申し込みいただけます。
・毎月5のつく日の朝9:00-10:00の時間帯(スタジオ・スケジュールの都合により8:45-9:45)
・パソコン(LAN使用可)、新聞、雑誌、クロワッサンなどの持ち込みOK。

2010/03/15

Saidera Masteringのモニター環境(その5)「SONY TA-DA9100ES」

サイデラ・マスタリングではモニターアンプにソニー マルチチャンネルインテグレートアンプ TA-DA9100ESを使用しています。このアンプは、かないまること金井隆氏が音質にかかわっている、ソニーが開発、設計した入魂のアンプです。
f:id:SAIDERA:20100315154551j:image金井氏は、弊社オノとはフルートアンサンブル「LYNX」などの仕事を通じても、たいへんお世話になっている、良き時代のソニーを代表するスーパーエンジニアです。オノは「プロサウンド」の連載記事で、金井さんはじめ関係者に開発ストーリーをロングインタビューしています。(←バックナンバーがどうしても見つからない場合、ご希望の方には、お名前、会社名、Eメールアドレスをお知らせいただければ、限定5名様までPDF資料をさし上げます。)
AVアンプとオーディオアンプの音の違いはAVアンプは色づけが少ないこと。オーディオアンプの場合はフラットなバランスといっても何かしらの色づけがされています。

2008年の暮れのスタジオリニューアルの際にTA-DA9100ESをマスタリングのリファレンスアンプとしても採用しました。(それまでも、サラウンドモニターにはTA-DA9100ESを使用していました。)僕自身サイデラ・マスタリングではアナログアンプのボルダー500AEをBTL接続で使っていたので、TA-DA9100ESがPMC MB1を十分に鳴らせるだけのパワーがあるのか少々不安でした。

しかし、それはTA-DA9100ESのサウンドを初めて聴いた時に全くなくなりました。とにかくレンジが広くハイスピードで立ち上がりが速い。そして圧倒的な歪みの少なさ。マスタリングの細かな音作りにも的確に反応してくれます。デジタルアンプだけど音ニュアンスは真空管アンプに近いと思いました。TA-DA9100ESはサラウンドに対応していて、各チャンネル200ワットの大パワーです。

音楽の抑揚を表現するには音の瞬発力が特に大切です。クラッシックのオーケストラでのff、R&Bの立ち上がりの速いキックの音が、生き生き鳴ってくれました。

マスタリングの作業では音量を固定しての作業がとても重要ですが、デジタルアンプなので0.5dBステップのボリュームで毎回確実な値に固定出来ること、また電源を入れてから音が安定するまでの時間がきわめて短いこと、消費電力が少ないことなどデジタルアンプならではの恩恵がたくさんありました。使いこなしや詳しい説明はこれから説明していきますので、楽しみにしていて下さい。

★カタログにはでていない開発ストーリーが「かないまる」にも。

2010/03/14

音の厚みを表現する(その2)「音の厚みと周波数の関係」

本日は音の厚みを表現するテクニックの応用です。

作業環境や機材により音が前に出て厚みを増す周波数には関連性があることがあります。例えば100Hzでキック、1kHzでスネアが太い音になるということです。ただ、SNの音は気に入っているけどキックはもう少しタイトにしたい、という場合、「音の厚みを表現する(その1)」にある、
“周波数が100Hzに近いほど厚みが出ますが抜けは悪くなります。
1kHzに近いほど抜けは良くなりますが厚みは出にくくなります。”
が応用出来ます。

キックをタイトに(抜けを良く)したい場合は強調する周波数を120Hz、140Hz、160Hz、180Hzなど、少し上の帯域にします。同じようにSNをタイトにしたい場合1.2kHz、1.4kHz、1.6kHz、1.8 kHzを強めてみて下さい。

マスタリングの現場では121Hz、125Hz、126Hz、128Hzなど、さらに細かくに調整しています。このノウハウはヴォーカル、ギター、ベースなど、いろいろ応用出来ますのでぜひ試してみてください。

2010/03/12

EMMA HOUSE 18 MIXED BY DJ EMMA

どうもMUSHです!

先日はDJ EMMAさんの「EMMA HOUSE 18 MIXED BY DJ EMMA」のマスタリングがありました!
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さんも自前のKORG MR-2000Sと電源ケーブルを持ち込まれました!5.6MHz DSDです!
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「クラブの空気感、心地いいアナログ感のある抜けを表現してみました。ゆとりのある低域、特にベースの透明感はDSDならではですね。」(チーフエンジニア森崎)

2010年3月31日発売です!

2010/03/10

音の厚みを表現する(その1)「楽器の鳴りを表現する」

本日は音の厚みを表現するEQのテクニックを説明します。

音の厚みを出すには部屋の響きではなく楽器自体の響きを表現する必要があります。ドラムの胴鳴り、ギターアンプ、ベースアンプの箱鳴り、ヴォーカルの胸の共鳴、アコースティックギター、ヴァイオリンのボディーの響きなど。EQでは100Hzから1kHzまでの間の帯域を強調することで、音に厚み、暖かみ、ふくよかさをプラスすることが出来ます。

「楽器ごとの周波数」
ドラムの胴鳴り→100Hz~300Hz
ギターアンプ、ベースアンプ→100Hz~500Hz
アコースティックギター、ヴァイオリンのボディーの響き→100Hz~500Hz
ヴォーカル→200Hz~1kHz

周波数が100Hzに近いほど厚みが出ますが抜けは悪くなります。
1kHzに近いほど抜けは良くなりますが厚みは出にくくなります。

ポイントは一つの帯域ではなくいくつかの帯域に分けて、必要な帯域のみ強調することです。例えば、100Hz、250Hz、700Hzの3つの帯域をQを少し狭めて強調すると、ドラム、エレキギター、ヴォーカルの厚みを同時に出すことが出来ます。声質、楽器によっても帯域、Qの幅、レベルは様々ですので、いくつかのパターンを作ってみて聴き比べて下さい。

p.s.
ここまで述べたのは「音の厚みを表現するEQのテクニック」ですが、視点を変えて。なぜ、ちょっとしたEQにより、スピーカーから出た音が変化するのかというヒントになる「ROCK ON PRO」の記事がこちらにあります。かなり専門的ですが、物理が好きな方はどうぞ熟読ください。
http://pro.miroc.co.jp/2010/01/20/build_up_your_studio/

2010/03/05

DSDレコーディング(その4)「矢沢朋子xMR-2000S」


先日、杉並公会堂小ホールにて、矢沢朋子さんのピアノのレコーディングを行ないました。
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このホールは収容人数200人弱、幅12m×奥行17.6m×天井高6m(面積212m2)のコンパクトな空間ですが、音がとても良かったです。壁が木のスリット状で初期反射をコントロールしてます。残響は1秒前後に感じました。レコーディングスタジオよりも長くコンサートホールよりも短いです。
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ピアノはベーゼンドルファー model290インペリアル。ステージ上で矢沢さん、弊社オノ、調律師の伊藤さんが緻密に位置決めをしています。動かすごとに透明感が出たり、厚みが増したり、音量が変わります。

最終的に決まった位置でのピアノの音は、低域の濁りがなく、そして音像が大きく厚みがあります。特に音量の大きさには驚きました。ホールの後ろの席でも十分な音量があります。これは直接音と初期反射音がきれいにブレンドされているからだと思いました。

いつもオノから指導されていることは、良い演奏を録音するには、部屋の中で楽器が最も良い音を奏でる場所で演奏し、音を良く聴きながらベストポジションにマイクを立てるということです。これはEQもCOMPも使わないマイクアレンジのみの究極のレコーディング方法ですね。

もちろんレコーディングはDPAのマイクとMR-2000Sを使用し5.6MHzで録音しました。矢沢さんの演奏も素晴らしく、あっという間の一日でした。
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2010/03/03

リミッターの使いこなし(その5)「コンプとのバランス」

本日はリミッターの使いこなし(応用)です。

ソフトリミッターは緩やかにかかるので全体のピークを自然に抑えるのに向いています。対してリミッターはしっかりかかるのでエッジの効いたサウンドなど、積極的な音作りに向いています。

使いこなしのポイントはコンプとのバランスです。例えばエッジのあるサウンドを作りたい場合、ソフトリミッターだけではエッジは出にくいのでそれを補うためコンプを強くかけなければいけません。また輪郭を出すためにアタックタイムも遅い設定にする必要があります。「エッジのあるサウンド」の目的は達成出来ますがヴォーカルの子音の魅力、ディストーションギターの倍音などが少し抑えられてしまいます。

対して、リミッターなら緩めにかけても輪郭が出るのでコンプも弱くすることが出来ます。アタックタイムも速い設定が可能になり音楽のニュアンスを損なわず、自然で立ち上がりの速い低音を作ることが可能になります。このテクニックはR&B、HIP HOP、クラブミュージックなどにとても有効です。ただしこの使い方はディストーションギターやシンセがコンプ感のあるサウンドに聴こえることがあるので、ロックやJ-POPなどジャンルには向いていません。注意して下さい。