2015/01/23

「Tetsuya Hikita+NIL / Ferry」のマスタリング、アナログEQとデジタルEQの使いわけ


発売中の「Tetsuya Hikita+NIL / Ferry」のマスタリングをやらせていただきました。お二人の2ndフル・アルバムのマスタリングをどのように仕上げていったのかを解説します。OTOTOYのロングインタビューも必読です!

マスタリングではEQなどに手をつけるまえに、素の状態のミックス音源をじっくり視聴確認することがとても大切です。今作のマスタリングでもアーティストのお二人と一緒にまずミックス音源を視聴しました。ミックスバランスはバッチリ!ヘッドルームも十分に残してあり、奥行きと広がりのある素晴らしい仕上がりでした。アーティスト本人がプリマスタリングを施した参考用音源と、持ち込みのリファレンス音源も視聴して仕上がりの方向性のイメージを共有していきます。これには初めて立会いにきてくれたお二人にサイデラ・マスタリングのモニターシステムに慣れてもらうため、という狙いもあります。

アーティスト本人がマスタリングを施した参考音源は音圧高めに仕上げられていましたが、打ち合わせの結論は「そこまで音圧は必要なく、奥行きやきめ細かさをもっと引き出してほしい」ということになりました。ミックス音源のナチュラルさを活かして、音圧ではなくそれぞれの楽器の音像を大きく聴かせるように仕上げることにしました。

音の抜け、透明感を出しつつ、広がりのあるシンセと切れのあるノイズの対比を表現するのに、アナログEQとデジタルEQを使い分けます。
1.アナログEQで音の土台を作る、倍音をプラスする
2.デジタルEQで音の輪郭や芯を強調する

1.Dangerous Music BAXEQでローエンドを整えてキックとベースの存在感を出しました。周波数は18Hzからローカットしています。BAX EQは通すだけで自然な倍音がプラスされるので高域は特にEQをせず、機材のキャラクターを積極的に音作りに活かしました。今作のシンセの広がりはこのEQで表現しています。

2.音の芯をEQで強調するときに特に気を使うのが1kHz前後の帯域です。あくまで僕の考えですが1kHzは音の重さ、存在感を強調できます。例えばスネアの音を前に出したいときに1kHzを強調するとスティックがドラムをたたく質感やピアノの鍵盤の重さを表現してくれます。それより下の500Hzでは柔らかく、上の2kHzでは固く聴こえますね。今回のマスタリングでもスネアやクラップで芯のあるビートを表現するために曲ごとに強調する帯域を微妙に変えています。例えば1110Hzとか1060Hzとかそのぐらいの微調整です。質感をちょっと変えたいときに強調する量を変えるのではなく、周波数をほんの少し変えてみてください。

エレクトロニカのジャンルなどPC内部だけで仕上げた音源をマスタリングでアナログ機材を通して仕上げることはとても有効です。アナログ機材特有の倍音が足され中域のしっかりした存在感のある音に仕上がります。

今作はCD用のマスタリングと同時に、96kHz/24bitのハイレゾ用のマスタリングも行いました。サイデラ・マスタリングではCDマスターと同時に、ハイレゾマスターも残します。こちらはOTOTOYより先行配信されています。優しく包み込むようなシンセ、きめ細かく生命力あるノイズはCDでは再現できなかったサウンドです。ぜひ皆さん聴いてみてください。

「Ferry /Tetsuya Hikita+NIL」
レコード番号:PFCD46
定価:1,620円(OTOTOYハイレゾ配信)、2,160円(CD)
レーベル:PROGRESSIVE FOrM
http://www.progressiveform.com/
https://soundcloud.com/progr…/…/tetsuya-hikita-nil-nil-ferry




01. Bud
02. Crop feat. Go Yamanojo
03. Mist
04. Trench
05. Water Wheel
06. Pray feat. dagshenma
07. Voice
08. Voyage
09. Setting Sun
10. Planet feat. Youichi Okano
11. Connection
12. Matrix
13. Day By Day feat. Takeshi Nakayama *Digital Only