2011/07/22

ミックスマスターのレベル(その3)「音量レベルの小さなミックスマスター」


本日は音量レベルの小さなミックスマスターについて。

メリットはズバリ音質の良さです!ヘッドルームに余裕がありレベルオーバーにより歪むことがないためハイエンド/ローエンドまできれいに伸びて、演奏のダイナミクス・奥行き・広がりが繊細なところまで再現されます。クラシックやジャズはもちろん、ポップスやロックでも声や楽器の質感をナチュラルに表現したいときはレベルを入れすぎずにミックスを仕上げましょう。瞬間的なピークでも-1.0dB程度までに押さえた音量レベルがベストです。アウトボードや、複数のプラグインをインサートしての音作りでも、ミックスマスターの音量レベルはヘッドルームに余裕を持たせることで歪まずにクリーンなサウンドを得ることが出来ます。

また、みなさんもミックスでEQをすると思いますが、「ブースト方向にEQ」することが多いのではないでしょうか?ヘッドルームに余裕がなければEQでブーストすることでマスタートラックは、ピークに達して音が硬くなったり歪むことがあります。複数の帯域を、例えばボーカルなら声の芯(1.0kHz)、輪郭(6kHz)、倍音(16kHz)などでEQする場合はより多くのヘッドルームを持たせましょう。またEQする帯域が増えるとEQカーブの重なりでフレーズによっては思わぬピークが生じることがあります。

意外だったのが、ミックス時に出来るだけ音量を入れた方がマスタリング後の仕上がりの音量を大きくできると思っている方が結構いること。そんなことはありませんよ!小さめのミックスでもマスタリングで十分に音量を大きく仕上げることはもちろん可能で歪ませずに聴感上で大きなレベルをつくり出すことができます!マキシマイザーを入れたくなる気持ちもわかりますが、一度バイパスさせてモニターしてみましょう。ミキシングで音量より大切なことは「音楽としてのバランス」です。演奏が分かりやすく聞こえること。歌とオケのバランス。音量レベルやモニターシステムが替わってもニュアンスが変わらないことです。

2011/07/21

優先順位1位はマスター・テープのアーカイビング


音楽が好きな人には、ようやく「本当の意味でのレコード」を楽しめることができる時代がきた!

97年をピークにパッケージCDの売り上げはシュリンクしているが、音楽は決してなくならない。携帯型プレーヤーやPCにMP3で1000曲も保存している人も少なくないだろう。しかしそれは情報を間引きされた音で、ジャンルによっては別物と言えるほどに音楽の重要な部分が欠落している。それほどにオリジナルのレコーディングとは違う音なのである。責任ある発言という意味で私は、録音エンジニアという職業のほかに、作曲家としての活動も続けているが、少なくとも私自身のマスターについては、CDとマスターとは異なる音楽体験である。まあ、それほど印象が変わらないCDがあることも認める。


レコード会社、原盤制作会社、レーベル運営、ミュージシャンで自分でCDなどを作っている方々へ。

倉庫代の節約という理由ですでに廃棄してしまった場合は取り返しがつかないが、手元に(保管庫に)アナログ・テープがあることが判っている場合、今すぐ始めないといけない優先順位1位はマスター・テープのアーカイビングである。ハードディスクのスペースや予算を考えたら、96kHz 24bitでデジタル化しているからそれで十分だという意見も理解できる。この10年以内にPro Toolsなどで制作されたマスターは、それでもよいであろう。重要なのは、それ以前の1/4インチ、ハーフインチなどアナログ・マスターテープである。温度湿度の管理がなされていてもアナログテープの劣化は早い。サイデラ・マスタリングでは、STUDER A-80、A820、Dolby-SR/Aのメインテナンスとトランスファー用のケーブル、電源周りまで管理されている。熱処理(ベーキング、オーブン入れ)して、正しい調整により、5.6MHz DSDにアーカイビングしていく。ハードディスクの価格も手頃になり、このタイミングで5.6MHz DSDでアーカイビングできることは画期的である。私自身のマスターも、5.6MHz DSDでアーカイビング後はついに廃棄!とした。後悔しないぞ。ポップス、ジャズ、フュージョン、クラシック、演歌、とりわけ歌の上手い歌手、名演奏のマスター、とにかくアナログ・テープは、5.6MHz DSDでアーカイビングが必須である。希望される場合、同時にDSDマスタリングも受託しているので、どうぞ遠慮なく問い合わせてほしい。2.8MHz DSFあるいは96kHz 24bitにダウンコンバートして高音質音楽配信も可能。これで「本当の意味でのレコード」が楽しめる。

サイデラ・マスタリング
シニア・エンジニア:オノ セイゲン


2011/07/12

ミックスマスターのレベル(その2)「ミックスで音量レベルを入れるときは」



最近では優秀なプラグインのおかげでかなり音量レベルの入ったミックスマスターも多くなりました。今回は音量レベルの大きなミックスマスターについて。

ミックス段階でフルビットに近いレベルを入れることのメリットは「限りなく製品CDに近い音圧感でサウンドをチェック出来ること」です。常に最終形に近いかたちをモニターしながら制作することで楽曲の方向性は非常に明確になります。レンジ・バランス・ボーカルの抜けがバッチリならマスタリングではほんの少し透明感や抜けをプラスするだけでOK。レベルの大きいミックスは迫力が出るので、必ず小音量でもプレイバックしてみて歌詞・演奏が伝わりやすいか?声の芯・キック・スネアのアタックなどがしっかり聴こえるか?忘れずにチェックしましょう。

逆にデメリットとしては、音量レベルの大きなミックスマスターはサウンドのキャラクターやニュアンスが決まっているので、マスタリングでミックスの方向性と違う音作りは難しい。広がり・奥行きを出したい場合やナチュラルな質感で仕上げたい場合も、一度迫力・音圧のあるようつくられた音源からこれらのサウンドに仕上げるには限界があるので音量レベルの大きなミックスマスターは避けるべきです。ナチュラルな質感ながら音量を入れたいときは、楽器に輪郭があり、音像が大きく、ハイハット、ボーカルの子音など特定のピークが無いミックスは聴感上音量が大きく聴こえるため、レベルを入れてもナチュラルさを失うことを抑えられます。

また多くの方は24ビット/48kHzなどCDフォーマット以上でミックスしているので、音量やバランスがいくらバッチリでもマスタリングで16ビット/44.1kHzのCDフォーマットに落とし込む必要があります。ミックスマスターをただ機械的にCDフォーマットに変換すると24ビットから16ビットの場合で単純計算で8ビット分情報量が下がります。ミックスマスターからアーティストが理想としている楽器の音色・演奏のグルーブなど音楽的な要素を引き出しアーティストの気持ちをリスナーに伝える作業、あるエンジニアさんの言葉を借りると「意思のある16ビット/44.1kHz」に変換するのがマスタリングです。ジャンルに合ったサウンドに仕上げること、アーティストの求めるわずかなニュアンスの違いをサウンドで表現すること。様々なテクニックでそれらを積み重ねることで情報量が下がってもリスナーに伝わるサウンドに仕上げることが出来ます。