2011/02/28

DSDマスタリング(その4)「肝となるアナログケーブルの選択」



サンレコ誌主宰の「Sound & Recording Magazine presents Premium Studio Live」などでDSDレコーディングの音の良さはご存知ですね。「DSDレコーディング」は演奏の空気感、リアリティーがそのまま録音出来ます。アーティストの細かなニュアンスをありのままに録ることが出来る。サウンドはナチュラルで立ち上がりが速く艶があります。

録音、MIXをPCMで行っている場合でも、DSDマスタリングのサウンドは強力に良いというのを知ってもらいたい!本日はDSDマスタリングの音作りについて。

CD用マスタリングでの「DSDマスタリング」とはマスタリング時のプレイバックをDSDで行うマスタリングのことを指します。TDマスターが初めからDSDの場合はもちろん、48/24などのPCMの時もKORG AudioGateでPCM→DSDアップコンバートを行いKORG MR-2000Sで再生します。

しかし、ただMR-2000SでプレイバックするだけではDSDの良さを表現することは出来ません。MR-2000Sにしっかりと振動対策を施し、アナログ機材やラインケーブル、電源ケーブルを駆使してプレイバックする際に音作りの土台をしっかり築き、ジャンルにあった調整を行うことでDSDの良さを最大限に活かしたDSDマスタリングが可能です。

KORG MR-2000SはDSD/Analogコンバーターを内蔵していて、アウトはキャノンまたはピンのアナログです。そのアナログアウトのケーブルの選択がDSDマスタリングでは肝になります。これまでのPCMマスタリングでは低域を豊かに表現するためにトランスペアレント MUSICLINK Superを基本に作業していたのに対し、DSDはローエンド/ハイエンドが十分に伸びているサウンドなので、100Hz〜4kHz前後、キック/スネア/ヴォーカルの芯が出るアクロテック8Nケーブルを使用。電源ケーブルはセンター成分がしっかり出るアレグロケーブルを使用しています。センター成分をしっかり出すことで大型のオーディオシステムだけではなく、ヘッドフォンやPCのスピーカーなど口径の小さなシステムで聴いてもパンチのある音作りがDSDマスタリングでも可能になります。

2011/02/21

サイデラ・マスタリングのモニターシステム構築論


先日は”音の朝活”サイデラ・モーニングセッションで「ラインケーブル・ADコンバーター徹底視聴」を行いました。細かなサウンドの違いへのこだわりの積み重ねが最終仕上がりを大きく左右することを参加いただいた方に体感してもらいました。マスタリングで「細かなサウンドの違い」を正しく聴き分けるには「解像度の高い、色付けのないモニター」が必須です。
本日はサイデラ・マスタリングの徹底したモニター環境のポイントをいくつか解説します。

[ スピーカーセッティング ]
スピーカーはしっかりした台に置き、左右の角度やリスニングポイントからの距離はミリ単位で調整します。ポイントとなる低域の調整は鉛板などでの振動対策とインターロッキングによる拡散で行なっています。部屋全体の響きは吸音というよりも調音に近い。SONEXとグラスウールを定在波のある場所に貼り、試聴を繰り返しながら微調整しました。 吸音しすぎていないのでロスがなく小さなワット数でもかなりのモニターレベルを出すことが出来ます。スタジオはスピーカー両側には十分な広さと天井高も4.4メートルあるので奥行きと広がりのあるモニターを実現しています。

[ 機材セッティング ]
機材のセッティングのポイントは振動対策と放熱です。機材はTAOCのボード、フラワーボード、檜の集成材、厚手のシナ合板などの上に置いています。ラックマウントの機材はネジの種類と締め方にこだわっています(すぐに出来る音質アップの2つの方法(機材の設置 基礎編)参照)。低域に暖かみと厚みをプラスするため多くの機材は木材の上に置き、もちろん部分的に金属のインシュレーターを使用してレンジとバランスを調整します。放熱を良くするため機材は出来るだけスペースを空けて設置すること。特に必要な場所には扇風機を取り付け空気の流れを良くしています。機材は熱を持ちすぎると音がだれて来るのでしっかり対策する必要があります。

[ ケーブルの選択 ]
モニターラインのラインケーブルにはSaidera Ai SD-9003、電源ケーブルはACROTECの製品をリファレンスにしています。その選択の基準は「色づけがなく、レンジが広く、立ち上がりの速いケーブル」です。

モニター環境の調整は(1)最初にルームアコースティックの調整、(2)それから機材のセッティング/調整、(3)最後にケーブルの選択という順序で行ないます。聴き慣れたリファレンスCDの音を基準にルームアコースティックの調整、その他全ての機材の調整を行ないます。時間はかかりますが正しいモニター環境を作るにはこの方法が一番近道です。

2011/02/18

DSDマスタリング(その3)「歪みの少ない透明感のある声、槇原敬之/林檎の花」


JR東日本東北新幹線の新青森駅開業のCMですでにみなさんお馴染みの、槇原敬之さんニューシングル「林檎の花」のTD音源はKORG MR-2000Sで録音された5.6MHzDSDデータでした。最近はWAVなどのPCMデータをKORG AudioGateでDSDデータにアップコンバートして作業する「DSDマスタリング」の手法を多くとっていますが、やはりDSDレコーダーにダイレクトにTDされたサウンドは違う!優しく暖かみがあり抜けてくるヴォーカル。エンジニアTさんに質問したところ、
「MR-2000SにTDするようになってから、EQをほとんど使わなくなりました。PCMに落とす時は声の抜けを良くしたり、輪郭をつけるためのEQをかけていましたが、DSDは高域をEQしなくても抜けるのでどんどんシンプルな処理になっています。」
「音の透明感が違うのでリバーブのかけ具合も変わりました。」
とのこと!PCMの場合DAW上でのバウンスやマスターレコーダーへのハイサンプリング録音でも音質が若干変化しますが、MR-2000Sに録音すると録音前と後で音のニュアンスがほとんど変わりません。MR-2000Sのインプットスルーを聴きながらTD作業をすればエンジニアのイメージしたサウンドに限りなく近く仕上げることが可能。これがDSDが他のフォーマットに比べより音楽的に仕上がる要因のひとつです。

今作のDSDマスタリングではEQ、COMPを施す前に音の土台作りをしっかり行ないました。まずエンジニアTさんがTD時に聴いていたサウンドを再現するために録音に使用したワードクロックROSENDAHL Nanoclocksを再生時にも使用し、これにより低域の厚み、高域のレンジが増しピラミッド型のバランスの良いサウンドになりました。さらに声の輪郭、存在感を出すためにアレグロの電源ケーブルを使用。(DSDマスタリング(その1)「透明感のあるアナログサウンド」を参照)このケーブルを使うと音像が大きくヴォーカル、キック、スネアなどモノの楽器が前に出て来ます。

EQは補正程度に。ヴォーカルの芯を出すために1kHzを1.4dBプラスしました。まさに「高域をEQしなくて済む」のでより歪みの少ないクリアーで透明感のある声に仕上げられます。COMPはレシオ1.6:1、アタックタイム50ms、リリースタイム300msでごく浅くかけました。アタックタイムを遅めにしてヴォーカルではなくキックに反応させリズムをタイトに仕上げています。

サウンドは2011年3月11日(金)発売のCDで、ぜひ確認してみて下さい。

『クラーク志織 7人の音楽評論家の肖像展』

2月19日(土)より弊社1Fではじまる展示のお知らせをいたします。
お誘い合わせの上、ぜひお立ち寄りください。

新進気鋭の画家クラーク志織が、第一線で活躍する7人の音楽評論家に会いに行き、肖像画を描きました。カラフルでPOP、愉快にみえる世界の中にどことなく哀愁がにじみ出ているのはなぜでしょう?肖像画に添えられるそれぞれの「音楽評論とは何か?」のコメントにその答えはあるかもしれません。



『クラーク志織 7人の音楽評論家の肖像展』
〜音楽を言葉にする人々を絵にしました〜 

7名の音楽評論家


青木和富 
今井智子
小沼純一
佐藤英輔
高橋健太郎
松山晋也
増渕 英紀
(50音順/敬称略)

画家クラーク志織が描く 7名の音楽評論家の肖像をそれぞれの「音楽評論とは何か?」の
一言を添えて展示します。

クラーク志織プロフィール
Time Out Tokyo記事
TOKYO WARDROBE記事


期間:2月19日(土)〜 28日(月) 10:00〜18:00
オープニングパーティー 2月19日(土) 18:00〜20:00

19日は12:00〜20:00、20日は16:00〜20:00、この2日間は作家本人も会場におります。
26日、27日はお休みとなります。

入場無料
MAPはこちら

2011/02/08

YAMAHA NS-10Mの時代


本日はYAMAHA NS-10Mについて。
YAMAHA NS-10Mはレコーディング・スタジオで一番有名なモニタースピーカー。(写真は改良型のNS-10M STUDIO)耐入力は50Wしかないのにドライブするパワーアンプの定番AmcronPSA-2の出力は150Wもある。もっと小さいアンプでも十分鳴らせますが、レコーディングエンジニアが求めているのは音の瞬発力。キックがドン、と鳴った時にスピーカーもドンって来ないといけない。車なら軽自動車と排気量の大きな車の加速の違い、アクセルを踏んだときに瞬時に反応してくれるそのフィーリングです。

NS-10Mの周波数特性は60〜20,000Hz、クロスオーバー 2,000Hzなのでちょっとピークのある音を入力したり、一つの帯域で、特に高域をEQしすぎるとツイーターがとんでしまう。このようなセッティングのモニターシステムの使いこなしはとても難しい。NS-10Mをバランスよく大音量で鳴らすには経験とノウハウが必要なのです。このスピーカーを鳴らすことが出来れば一人前です。

当時NS-10Mのスピーカーユニットは消耗品と考えられていて、音がへたればすぐに新品のユニットに交換。だから交換用のユニットのストックは充分にありました。スピーカーユニットを交換すると音のキャラクターが変わる。エイジングをして馴染みを出してからセッションで使用しますが、それでもバックアップ用のNS-10Mが2、3ペアは待機してました。エンジニアも2STの音、6Stの音というようにスタジオごと、モニターシステムの特徴を完璧に熟知していました。この経験を通して「モニターシステムの特徴を理解することこそエンジニアに必要不可欠である」ことを学びました。

NS-10Mの一番の魅力は明るく元気のあるサウンド。ミュージシャンがコントロールルームでプレイバックを聴いたときに盛り上がれる音楽的な音。アーティストがのってくれば良い演奏を録音出来る。アーティストに気持ちよく演奏してもらうことは音楽制作では最も重要です。だからレコーディング・エンジニアは良い演奏を録るためにプレイバック、キューボックスの返しのサウンドにこだわるんです。

「相手が演奏したいタイミングでテレコを回せ」「俺たちは音を録っているのではなく音楽を録っているんだ」「そうすればアシスタントでも音楽制作に参加出来る」「ミュージシャンとテレコで会話しろ」と。マスタリングで、曲間決めをするとき、この言葉を思い出します。NS-10Mのサウンドを通して一流のエンジニアの心を教わりました。
※テレコ:テープレコーダー。SONY-PCM3348、STUDER-A820など。

2011/02/06

すぐにできる音質アップの2つの方法(機材の設置 基礎編)



「ガタ無く置く。ネジをしっかり締める。」
このふたつが機材を設置する際の基本です。
本日は振動対策の基本としてスピーカー、スピーカースタンドのガタ取りとラックマウント機器のネジの増締めについてお話しします。機材は振動対策をしっかり施すとフォーカスがハッキリし、透明感のあるサウンドを再生することができます。その基本はガタが無いようしっかり置くこと。

スピーカー、スピーカースタンドのガタ取りには名刺や単語カードが便利です。まずは手で揺らしてスピーカーとインシュレーター、スピーカースタンドと床にガタが無いか確認します。全くガタがなければ調整は不要です。少しでもガタがあれば隙間に単語カードを挟んでいきます。そのままの厚さ、二つ折り、三つ折りと隙間に合わせて調整します。水平の確認は水準器を使います。水準器はプロ用のものではなく100均のものでも十分です。

アナログEQやコンプなどのアウトボードをラックにマウントする場合は必ずワッシャーをかませてください。そうすることでしっかり固定できます。ネジはしっかり締めたつもりでも時間が経つと緩んでくるので、数ヶ月に一度は増締めをすること。さらにラックマウントのネジの材質によって出音が異なります。傾向としては鉄のネジはガッツのある芯のあるサウンド、ステンレスのネジはレンジが広く高域までキレイに伸びたサウンドです。こちらは上級編のテクニックですが僕は機材に合わせて使い分けます。機材をラックマウントではなく直置きする場合、プロ用の機材はゴム足がついてない機種もあります。そのような機材には四隅に4cm×4cm程の薄いゴムシートを敷いてしっかり置きましょう。

「ガタ無く置く。ネジをしっかり締める。」すぐにできる音質アップの二つの方法、ぜひチャレンジしてください。

PS.2月15日のサイデラ・モーニングセッション#034ではラックマウントしたADコンバーターも徹底視聴しますよ。僕が上記2点や電源などトータルでチューニングしたサウンドを聴きに来てくださいね。詳しくはこちらをご覧ください。