2011/01/21

モニターの特徴が仕上がりを左右する


重要!「モニタースピーカのサウンドの特徴」がTDの仕上がりを左右する例です。
あるエンジニアとモニタースピーカーについて話しました。「ProAcのモニタースピーカーを使っていたけど最近になって以前使用していたYAMAHA NS-10Mに戻した」とのこと。

ProAcのスピーカーはレンジが広くバランスの良いスピーカーです。ボーカルも程よくオケになじんで聴こえます。それに対しNS-10Mは、決してHiFiではなくどちらかというと派手でヴォーカルが大きく聴こえるスピーカーです。彼はなぜNS-10Mに戻したのでしょう?答えは「クライアントさんが、歌を大きくして欲しい、というリクエストが多く、ProAcでミックスするとオケとのバランスが崩れるほどに歌を大ききめにしないと満足してもらえない。NS-10Mで作業していれば聴感上のヴォーカルレベルは大きく聴こえるから。」という事でした。歌のレンジが大きく聴こえるというNS-10Mの特徴を理解してミックスしているので、ボーカル音量はバランスよく録音され問題ないようです。ただし!低音の質感などは慣れる必要がありますね。

僕はマスタリングを始めたばかりの頃、こんな体験をしたことがあります。僕はメガネをかけています。困ったことにメガネの種類によって、レンズの大きさや形によって音の反射が異なり、スピーカーから聴こえる音質が異なるのです。マスタリング後のサウンドがなぜか地味に聴こえたことがありました。機材やケーブルはチェックしても問題なかった。色々、原因を調べました。なんと実際の音色よりも派手に聴こえるメガネだったのです。そのメガネをかけてマスタリングした音を、別のメガネに替えて聴くと地味に聴こえていたのです。そんな重大なことに気がついたきっかけはヘッドフォンでした。スピーカーで聴くと派手なのにヘッドフォンで聴くと地味に聴こえたのです。ヘッドフォンの音はメガネの影響を受けません!まさかこんな身近に原因があったと知った時はビックリ?!しました。これを教訓に、メガネの選定にはファションではなく「裸眼と近い聴こえ方をするもの」を厳選しています。

マスタリング・エンジニアの中には仕事の時は襟付きのシャツやハイネックを着ない方もいます。最高の仕上げをするためには体調なども含め身の回りから自分のリファレンスを作る必要がありますね。もっと重要なのは、体調管理。そして常に平常心。すばらしいミックスに感動しても、常に客観的に。みなさまとの立ち会いマスタリングをいつも楽しみにしています!

2011/01/17

DSDマスタリング(その2)「楽器の太さを表現するローミッドの表現力」


DSDのサウンドの特徴はリアリティーです。特に楽器の太さを表現するローミッドの表現力があります。アコースティックギターのボディーの鳴り、ディストーションギターのアンプの箱鳴り、ヴォーカルの胸の響き。音と音の隙間が響きでつながるので暖かみのある音を作ることが出来ます。

先日、リマスタリングさせていただいたあるアーティストさん。リクエストは「ギブソンのアコースティックギターの低域、中低域を出して音を太く仕上げて欲しい、でも全体の抜けはオリジナルの雰囲気をキープしたい。」

真っ先に思いついたセッティングはKORG MR-2000Sとアレグロケーブルの組み合わせです。素材は48kHz、24BitのWAVファイルだったので2.8MHzのDSDデータにアップコンバートしました。5.6MHzより2.8MHzを採用したのは音像の大きさ、太さを表現するためです。

ラインケーブルはアナログ感もプラスしたかったのでMR-2000SからPrismSound ADA8(AD/DAコンバーター)はアクロテック8Nでつなぎました。最初はアナログコンプPrismSound MLA-2を通しましたがTD音源が十分太かったので最終的には外しました。音の抜けはADA8の電源をAudioPrism Power Foundation 1Aの電源BOXからとりました。この電源BOXはノイズフィルターを内蔵しているためとてもクリーンなサウンドです。

DSDのサウンドのもう一つの特徴は(毎回しつこいようですが)『音像が大きく立ち上がりが速い』ことです。ハイはEQしなくても抜け、コンプのアタックタイムを遅く出来るのでファットなドラムサウンドを作ることが出来ます。ただし、ローエンドの処理はとてもシビアです。1Hzの違いが音に影響するので良いモニター環境が絶対的に必要です。

サウンドはとても気に入って頂けました。プレイバックした瞬間に「この音が欲しかったんです」と言われた時は嬉しかったですね。僕もMR-2000Sを使い始めた当初はガッツのある音を出すためかなり試行錯誤しましたが今ではPCM、DSD5.6MHz、DSD2.8MHzとジャンルやアーティストの好みに合わせて使い分けています。プレイバックで最高の音質を引き出すことがマスタリングでは一番大切だと思います。

2011/01/12

音作りの3ステップ


本日はプラグインでも簡単に出来る、音作りの3つのステップについて。

1)音のキャラクター決め。
2)バランス調整。
3)個々の楽器の音作り。
1)マスタリングで一番大切なことはTD音源のクオリティーを100%引き出すことだと思っています。そのためEQなどを施す前に、楽曲やジャンルに合った機材、ケーブルの選択を最初に行います。目的は機材、ケーブルのもつサウンドキャラクターを積極的に音作りに反映するため。もう一つは聴き比べの過程でアーティストの好み、音の方向性を理解するためです。
※プラグインで作業する場合、最初に楽曲に合ったプラグインを選択します。

2)次にバランスの確認をします。問題なければそのままでOK。例えば低域が少し多い場合はマルチバンドコンプでバランスを整えます。(この作業ではコンプは使わず、あくまでレベル調整のみを行います)クロスオーバーは60Hz〜160Hzあたり。ほんの少しレベルを下げると音の抜けが良くなるはずです。また、メーターは触れているけど聴感上の音圧感が無いときも低域が多すぎるので少し下げましょう。

3)そして最後に個々の楽器の音作りを行います。1)、2)で仕込みが出来ていれば音作りはとても簡単になります。マスタリングではトータルでEQを施すので必要なポイントのみを正確にブースト、カットする必要があります。例えばボーカルなら声の量感、芯、倍音、艶と分けて考えます。

<ボーカルの基本EQ>
声の量感:600Hz〜800Hzをブースト
声の芯:1.0kHzから1.5kHzをブースト
倍音:12kHz〜16kHzをブースト、10kHzからシェルビングでブースト
艶:2kHz〜3.0kHzをブースト
子音が強い:6kHz〜12kHzをカット

男性ヴォーカル、女性ヴォーカル、ジャンルによって処理は異なりますが大切なことは必要な帯域のみをEQすることです。オリジナル音源と比較しながら行うことをおすすめします。

機材、バランス、ヴォーカルの音作りを同時に判断するのはなかなか難しいですよね。上記のように音作りの過程を分けると、いま行っている音作りを集中して聴くことが出来ますよ。


2011/01/11

ローエンドの処理


本日は難関、ローエンドの処理について。

低域は「多くても心地よい音」と「多すぎると音楽のバランスを崩してしまう音」があります。ローエンドの処理はマスタリングのキーポイントの一つです。音圧、音量、レンジ、バランスなどはこの帯域の扱い方で全く変わって聴こえます。

確認にPC用スピーカーなど口径の小さなスピーカーで聴いてみることは一つの手段です。スタジオモニターと聴き比べてどのような音の変化があるか、じっくり聴き比べて下さい。国内外を問わず良い作品はあらゆるシステムでバランスよく再生されますね。ここに音作りのヒントが隠されています。というのもローエンドには実音よりも楽器の響き、部屋の響きなど広がり、空気感を表現する音が存在するのです。

マスタリングで役立つローエンド処理の効果的な方法を説明します。
1)キックの音が次の音符にかぶってビート感が出ないとき、低い帯域から徐々にローカットしていくと良い感じで音が止まるポイントが見つかる。

2)J-POPやロックで低域が多すぎて中域のギターやヴォーカルが聴こえにくい場合、ローカットをすると厚みが増し音が前に出るようになる。

3)メーターの振れより音圧感がないときは低域を確認。低い帯域から徐々にローカットしていくと透明感のある音からマットな厚みのある音に変化していく。抜けが悪くならない一歩手前がスイートスポット。
低域の処理(その2)「ローカット」
低域の処理(その3)「超低域の確認」

4)96kHz/24Bitのマスター音源を48kHz/24Bitのようなニュアンスを表現したいときにも効果的です。
ハイパスフィルターでシビアに調整する

最初は20Hz〜30Hz辺でローカットしてみて下さい。1Hz変わるだけで音のニュアンスは変わります。周波数だけでなくカーブのパターンも3dB/Oct、6dB/Oct、12dB/Oct、ベッセルカーブなど切り替えることで様々な表現が可能になりますよ。


2011/01/10

モニタースピーカーの定期点検


年末年始に作業を休まれていた方も多いかと思うので、本日はモニタースピーカーの定期点検についてです。
点検箇所は以下の3点。
1)スピーカーの角度
2)スピーカーユニットのネジ
3)スピーカーケーブルのクリーニング

1)スピーカーの角度はリファレンスCDを再生して確認します。定位、フォーカス、バランスを確認し気になれば微調整しています。特にスピーカーをインシュレーターに乗せている場合は角度がずれやすいので注意してください。2週間に1度、またはレコーディングやTDなどのセッションが始まる前に調整すればバランスの良いサウンドをキープ出来ます。

2)スピーカーユニットのネジが緩んでくると音がぼやけてきます。締めると輪郭がはっきりしたサウンドが戻ってきます。締め方は、順序は一筆書きで星を描くように。一度に締めるのではなく全体的に少しずつ増締めして行きます。こちらは1ヶ月に一度チェックすれば十分です。

3)パワードスピーカーの場合は入力のキャノン、TRSまたはRCA端子とラインケーブルのコネクターを無水エタノール、綿棒でクリーニングしてください。音の透明感が戻ってきます。3ヶ月ごとのクリーニングが目安です。パッシブスピーカーを使用している方はプラス、マイナスのスピーカーケーブルの被服が酸化していたら新しく剥き直して下さい。(U字プラグが付いている場合はプラグをクリーニングします。)酸化してくると導体が青みがかった黒ずんだ色をしてきます。スピーカーの端子は無水エタノール、綿棒でクリーニングしてください。

P.S.
スピーカーケーブルの抜き差しが頻繁な方はケーブルの頭をハンダメッキして下さい。導体がほつれにくくなります。このとき導体全体をハンダしてしまうと音質が変わるのでケーブルの頭のみハンダするのがポイントです。

モニター改善策(その2)「スピーカーユニットのネジ締め」
キャノンケーブル磨き