2013/04/16

スタジオの電源入れ


本日はスタジオの電源入れについて。

僕は20年ほど前に銀座の老舗スタジオ、音響ハウスでキャリアをスタートしました。実はこの時はマスタリングではなくレコーディングセクションに配属されていたんですよ。そこで最初に覚えた仕事が電源入れです。音響ハウスにはリズム録りができる1スタ、2スタ、ダビングやTD用の3スタ、6スタがありました。新人は朝の9時前に出社して9:30頃までに全スタジオの電源を入れなければならないのでスピードと正確さが必要です。

電源入れのポイントは3つ。
1.信号の流れる順番に
2.動線に沿って手際よく
3.確実に

スタジオに着いたら作業伝票を見てそれぞれのスタジオでどんなセッションが行なわれるのか(リズム録り、TD、ダビングなど)を確認します。それから一番最初にセッションがスタートするスタジオから電源を入れていきます。電源は機材の信号の流れに従い入れていきます。一筆書きのような美しい動線で入れていかないと先輩に怒られました。一番最初に主幹という大元の電源を入れます。音響ハウスは100Vと117Vの2つに分かれていました。この時プロテクション・スイッチ(過大入力があった時に動作するブレーカーのようなスイッチ)が押されているかを確認する。それからテープ・レコーダーの電源を入れます。僕がスタジオに入りたての頃はPro Toolsはなく、使用していたのはSONY PCM-3348(48chのデジタル・マルチトラックレコーダー)とSTUDER A820(24chのアナログ・マルチトラックレコーダー)です。トラックダウンが行なわれるスタジオでは 2ch仕様の STUDER A820の電源も入れます。同時にコピー用のカセットデッキ、MDデッキ、DATの電源も入れていきます。次にミキシングコンソールの電源を入れ、最後にパワーアンプの電源を入れます。当時の音響ハウスのミキシングコンソールは全てSSL製で、1スタが9000J、2スタ3スタが4000G、6スタが4000G+でした。ミキシングコンソールは本体とコンピューター用の2つの電源に分かれていました。パワーアンプはラージモニター用とスモールモニター用の2種類ありました。特にラージモニターはマルチアンプドライブ(ウーハー、スコーカー、ツイーターを別々のアンプで駆動する)だったので複数台のアンプの電源を入れないといけません。

片手にハンディーモップを持ち掃除しながら電源を入れるのが音響ハウス流です。電源を入れながらテープ・レコーダーのロケーターや機材のパネル面、ミキシングコンソールのモジュールの埃をはらいます。コンソールの掃除は特に注意が必要でパッチ盤の穴に埃が入らないようにパッチ盤のある方からない方に向かって埃をはらっていきます。埃をはらいながらつまみを定位置に戻して、最後に回線確認を行います。オシレーターから信号を出してLRのスピーカーから音が出ているか、接続の間違いがないか確認をして終了です。もし音が出なかった場合はまず予備のスピーカーと交換。それ以外の不具合があればメンテナンス・エンジニアに報告して作業前に修理をします。机の引き出しを見て備品を補充したり鉛筆を削るのも電源入れの時に行ないました。

新人の頃は流れ作業で入れていた電源も2年目、3年目となると仕事の先読みが出きるようになります。セッションの内容、エンジニアやアシスタントの癖によって必要な機材やマイクを運んだりプラスアルファの準備ができるようになります。「Aさんはこのマイクを使うので運んでおこう」とか、「1スタはストリングスのダビングが有るから方耳のイヤホンと鉛筆が多めに必要かな」など。しかし大変だったことは新人が入ってくるまでは一番下のアシスタントが電源を入れなければいけないことでした。朝までのセッションでも9時には電源を入れなければいけないので寝る時間は3時間を切ることもありましたが、やっと任された仕事だと思って頑張りましたね。

レコーディング・スタジオに入社した新人の皆さんはこれからまずは一人で電源入れを任されると思いますがぜひこの3つのポイントを頭に入れて頑張ってください!


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