2011/04/15

ミックスマスターのレベル(その2)「ジャンルごとの適正レベル」

ミックスマスターの入力レベルについて何度かに分けて連載します。
(その2)「ジャンルごとの適正レベルとは」。

J-POPやHIP HOPではレベルを入れることで生じる”歪みの要素”が音楽をよりパワフルに聴かせるためのスパイスとなります。が、ジャズやクラシック、アコースティックのジャンルでこれをやるとステージの空気感、アドリブの細かなニュアンスを失います。人間の耳は歪みにとても敏感です。工事現場の音、エンジン音などが大きく聞こえるのはその中に歪みの要素が含まれているからです。はっきりとわかるまで歪ませるのではなくニュアンス程度に歪ませると音の透明感が増したり、厚みのあるサウンドに聴こえてきます。こちらは前者のジャンルに有効な手段です。

ミックスマスターのレベルがギリギリまで大きなもので、歪む事なく大きく録音され、しかもバランスが完璧な仕上がりであればAD/DAコンバーターのキャラクター、ケーブルのキャラクター違いでファイナルタッチを加えるのみでマスターを仕上げる事が可能です。少ないプロセスで音作りが出来るためナチュラルで鮮度のある仕上がりになります。ただしオケとヴォーカルのバランスなどもきちんとそろっている必要があります。一方レベルがギリギリまで入っている音源で奥行き、広がり感を引き出すことはとても難しい作業になります。プレイバック送りのレベルを下げ、EQで前に出したい音、後ろに下げたい音を整え、コンプで輪郭を付ける作業もわずかな処理しか出来ません。一度音がつぶれてしまっている音源からアタック感、切れ、スピード感を取り戻すことは出来ません。

ジャズやクラッシックでは楽器の出音だけでなく演奏しているホール、ライブハウスの響きを含め録音する必要があります。音が出る瞬間、消える瞬間の細かなニュアンスをいかにとらえるかが大切です。そのためミックスマスターはヘッドルームを十分にとって仕上げます。そうすることでアドリブの緊張感、空気感、アンサンブルの美しさを表現することが可能になります。

逆に音量レベルが低すぎる音源の場合、レベルを大きくすることは可能ですがノイズが問題となります。アナログテープで録音していた時代はSNが悪くサーというテープヒスノイズが目立つので歪む一歩手前で録音することが基本でした。デジタル録音でもダイナミックレンジを十分に生かすには赤が点灯しないように、ヘッドルームを最低でも0.5dBから1.0dB程度空けて録音するのがベストです。

適正レベルで録音された音源では最終的にナチュラルに仕上げることもレベルを入れて音圧のある仕上げも可能です。理想的なTDマスターはメーターの振れよりも聴感上大きく聴こえる音源です。そのために必要な要素は音像が大きく、芯があり、ナチュラルで輪郭がはっきり聴こえるサウンドです。

音量を大きくしたいのであればおぜひ任せください。アナログ、デジタル、DSDの中から楽曲に合った最適な機材を選択し音量が大きく、奥行きのあるサウンドに仕上げます。

2011/03/10

歪みを判断するモニター環境


TD音源にはアーティストが演奏に込めた思い、グルーヴ、エンジニアの機材やスタジオのこだわりなど音楽的な要素がたくさん含まれています。しかし、予期せぬ音楽的でない要素が含まれてしまう場合があります。その判断が最も難しいものの一つが歪みです。

歪みには「音楽的な歪み」と「電気的な歪み」があります。前者はギターアンプや真空管機材、アナログ機材などによってアーティストやエンジニアが意図的に作り上げたサウンド。後者はマイクロフォンやデジタル機材の入力オーバーなどで歪んでしまったサウンドです。

真空管機材やアナログ機材に適切なレベルで入力したサウンドは心地良い「音楽的な歪み」が加わります。「音楽的な歪み」はJ-POP、ROCK、R&Bなどのマスタリングにおいて、音量や迫力、勢いをプラスしてくれるとても重要な要素です。しかしあるレベルを超えてしまうと耳障りな不快な歪みを生じてしまいます。マスタリングにおいて、このレベルの臨界点を判断出来るモニター環境は非常に重要な要素です。

マスタリング作業ではアーティストやエンジニアが込めた音楽的な要素を隅々まで聴き取る必要があります。そして歪みにおいては、それが音楽的か否かを判断しサウンドに織り込むことがで確実にリスナーに伝わるサウンドを作れるからです。

サイデラ・マスタリングのモニターシステムは上記の要素を完璧にクリアしていますのでどなたでも安心して判断できます。もちろんこのサウンドにたどり着くまでにはあらゆる機材の設置方法、ケーブルの選択、振動対策、ルームアコースティックの調整など試行錯誤を何百回と繰り返しました。現在も毎日の調整は欠かしません。モニタースピーカーの調整はこつこつ微調整を繰り返しながら少しずつ改善するのがいちばんの近道ですね。それが自分の耳を鍛えることにもつながります。


2011/03/09

難関、ピアノのマスタリングEQ


マスタリングでヴォーカルに次いで音作りが難しい楽器がピアノです。88鍵のピアノの音域の基音は最低音ラで27.5Hz、最高音ドで4186Hzと、非常に周波数レンジの広い楽器です。つまり他の楽器の周波数帯域と非常に重なりやすい。ベーゼンドルファー、スタインウェイなどピアノの種類はもちろん、ホールや録音ブースの広さ、マイクアレンジによって音色も大きく異なります。本日は難関、ピアノのマスタリングでの音作りについて。

ピアノは弦をハンマーで打ち鳴らす楽器なので、ハンマーが弦に当たるアタック感をどう表現するかキーポイントです。アタック感がないとスカスカのピアノの音になります。

ピアノのアタックを出す為に次のポイントを理解しましょう。88鍵のピアノの最高音ドは4186Hz(およそ4kHzと覚えて下さい)。ということはそれ以上の帯域は倍音によって構成されているので音の芯を出すにはこの周波数より下の帯域で音作りします。

1. 音の芯を出す 1.2kHz〜1.6kHz
2. 艶を出す 2kHz〜4kHz
3. 透明感を出す 4kHz〜8kHz
4. 低域の暖かみ 120Hz〜250Hz

[ 解説 ]
1. 音の芯はヴォーカルよりも少し上の帯域を使います。ヴォーカル同様にピアノの輪郭を出したければこの中で低い周波数、オケに馴染ませたければ高めの周波数を使います。

2. この周波数は等ラウドネス曲線を見ればわかるように人の耳が最も敏感な帯域です。強調することで音量感が上がりますが、音色まで変化してしまいやすい帯域なのでまずは音の芯を出してから補正程度に使います。

3. この周波数をほんの少し強調すると透明感が増しますが、ハットやシンバルなどの金物もこの帯域に存在するのでオケとのバランスをとりながら最後に調整します。

4. 音色が固く感じた時は低域を上げると響きが豊かになり相対的に高域のアタック感を抑えてくれます。打ち込みのピアノ音源で低域が存在せずにEQが引っかからない場合には高域を抑えます。

ピアノの音作りには生演奏を聴いて体感するのが一番です。ぜひジャズのライブやピアノ・ソロコンサートで本物演奏の素晴らしさ、音色を体験しましょう。

PS.ピアノのマスタリングにはDSDマスタリング本当にいいですよ!

2011/03/08

ドンシャリ音源の処方箋「周波数帯域のバランスを整える」


まれに、TD音源がドンシャリにあがっていることがあります。ローエンドとハイエンドの伸び過ぎで音の芯がない為ヴォリュームを上げても音圧感が出ない。TDをスモールスピーカーのみで行っていたか、あるいはモニターが「かまぼこ」だった可能性が考えられます。本日はそんな時のマスタリング、ドンシャリの処方箋。

まずはローエンドを抑えることから。マルチバンドコンプ(の場合はコンプはかけない、レベルコントロールのみ)などの帯域分割で100Hz前後から1dB〜2dB下げて聴いてみます。キックのアタック感が出なければさらに30Hz辺りからローカットフィルターで緩やかにカットします。

次に高域のチェックです。シャカシャカしやすい楽器はハイハット、シンバル、シェーカー、タンバリンなど。まずこれらの楽器が出過ぎないようにオケに馴染ませます。マルチバンドで4kHz辺りから少しカットします。音質が変わるようなら8kHz、10kHzと周波数を上げていきます。低い周波数からカットした方が輪郭のある音を作ることが出来ます。

100Hz〜10kHzはフラットで、それ以上、それ以下の周波数は緩やかなカーブでロールオフするようなバランスを整えると、一つ一つの楽器がしっかり聴こえ良いバランスに仕上げる事が出来ます。レンジのバランスを整えたら次に個々の楽器の音作りです。

どのようなシステムでもバランス良く聴かせるにはセンター成分の楽器、キック、スネア、ヴォーカル、ベースをどう聴かせるかがポイントです。一番最初にヴォーカルの質感を決めます。EQポイントは声質によって様々ですが、声のエッジを出すのは1kHz〜1.5kHzをプラスします。1kHzが一番輪郭がはっきりしますが声が硬く聴こえる時は少し周波数を上げます。1kHz、1.1kHz、1.2kHz、1.3kHz、1.4kHz、1.5kHzと周波数を変えながらオケとのバランスを聴きます。周波数を上げていくと声が柔らかく聴こえる瞬間があります。そこから少し下げたところがスイートスポットです。このポイントが見つかれば他の帯域をEQしても声質が変わらず存在感のあるヴォーカルを表現出来ます。

キックは120Hz〜180Hzをプラス、スネアの抜けは6kHzをプラス、ベースは60Hz前後をカットしてキックとのかぶりを調整し抜けを良くします。マルチバンド、ローカット/ハイカット・フィルターでバランスを整えると少ないEQで音作りが出来ます。マスタリングの作業は個々の楽器の音作りに注目しがちですが最初のバランス調整が最も大切な作業です。そのためには周波数レンジを的確に判断出来るモニタースピーカーが必要です。スモールモニターだけではバランスが分かり難ければヘッドフォン、ラジカセ、PCのスピーカーなど色々な環境でチェックしてみて下さい。

2011/03/07

ラインケーブルの取り扱い6つの注意点


「Saidera Ai SD-9003」ケーブルは現場での使用を想定しシース(SD-9003で言えば赤い外皮の部分)がしっかりと作られています。それでも取り扱いを間違えると断線や接触不良などトラブルが起こり得ます。「ラインケーブルの取り扱いの基本」です。

1. ケーブルの抜き差しはコネクター部分を持って行なう。
2. XLRケーブルを接続したときは「カチッ」とロックがかかったことを確認。
(まれにある、機材側がロックがないコネクターの場合は確実に接続されていることを確認)
3. ケーブルは適切な長さで使用する。短い方がロス無く信号を伝送することが出来るが、最短の接続でも綺麗なアールを描く長さで。ケーブル側コネクターの根元が90°に曲がっているときは短すぎ、プラス20センチは必要です。
4. LR同じ長さのケーブルを使用する。パワードスピーカーなどに使う場合、片側がミキサーやオーディオI/Fに近くてもLRで長さは統一。
5. ケーブルは決して投げない。ハンダ付け部分にクラックがはいり接点不良の原因となります。
6. 定期的にクリーニングする。数ヶ月使用し続けると端子が酸化しますので無水エタノールなどでクリーニングします。
(コットンや綿棒で拭くだけでも十分効果があります)
併せてお読みください↓
ケーブルのメンテナンス(その1)「XLRケーブルの定期クリーニング」
ケーブルのメンテナンス(その2)「RCAプラグの定期クリーニング」

これらは基本中の基本ですので特に音響を学んでいる学生さんは今のうちにマスターしておいて下さい!現場では早い・安全・確実が求められます。そして笑顔も忘れずに。