2014/07/08

アンサンブルグループ「Pacificmodern」特別インタビュー (その1)DSDレコーディング体験から考える「音」と「自分」の距離感

DSDレコーディング体験から考える「音」と「自分」の距離感

山下いずる×山下美音理×オノ セイゲン


インタビュアー:久保 奈津実
(サイデラ・マスタリング)


サイデラ・マスタリングでは、マスタリングのみならず、コンサートホールやライブ会場でのDSDレコーディングも行っています。今回はチェリストの山下いずるさん、ヴァイオリニストの山下美音理さんのアンサンブルグループ『Pacificmodern』(パシフィックモダン)のレコーディングについてのインタビューです。

仙川アヴェニューホールで、5.6MHz DSDレコーディング(※1)、サイデラ・マスタリングにてDSDマスタリングしました。最終的には3種類の微妙に質感の異なるマスター音源を作成。それぞれの印象を伺いました。

久保:今回は 12月にDSDレコーディングされた音源から、
1.エフェクトを加えていないそのままの音源
2.コンセルトヘボウの響きを加えた音源(※2)
3.ウィーンのムジークフェラインの響きを加えた音源
の3タイプの音源を聴き比べてもらいました。その結果、3のムジークフェラインの響きを加えたものをマスターとして選ばれましたが、3タイプの聴き比べをしてみてそれぞれの印象はどう違いましたか?

山下いずる:12月にレコーディングしてすぐ、まずは演奏の細部の確認という意味でも、エフェクトも何もつけてない、マイク2本だけで録ったそのままのDSD音源(1)を聴きました。DSDレコーディングでは、個々のパートや繊細な部分まで聴きとりやすく、その時点でまず「音がいい」と思いました。もちろん自分たちの演奏ですので、自分のパートを集中して聴いてしまうものです。録音したばかりなので、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの3つの楽器のバランスを聴くことで精一杯でした。日にちをおいてサイデラ・マスタリングに来て、まずコンセルトヘボウの響きを加えたこと(2)には、理由があります。前作「バッハ:ゴルトベルク変奏曲」のマスタリングの時、オノさんにコンセルトヘボウの響きを加えてもらったのですが、そのときに「あれ?弦がきれいに聴こえるな。」と思ったので、今回の録音にも加えられないかお願いしてみたのです。

オノ:そもそもふつうは、マスタリングではやってはいけない作業です。リバーブを加えるのは、ミキシングですから。とはいえ、マイク2本だけで録ったそのまま(1)ですから、いわゆるミキシング行程がありません。よって、マスタリングで、ホールで録ったものに後からでも響きを付け足すことは、結果的に演奏者本人やクライアントが好きな方向になるのであれば、躊躇なく可能であることを選択肢に提案させてもらいました。サイデラ・マスタリングでは、ふだんからミキシングや編集作業からいらっしゃるクライアントも珍しくありません。


山下いずる:レコーディングで使用した仙川のホールは、僕らはもともとよく知っていますが、小さいけど良く鳴るホールなので、いい響きになっていることは分かっていました。ですが、同時に「狭さ」も感じていて、もっと音に広がりを持たせたかったのです。音楽が聴こえた時に、滑らかというか、「お化粧」したような響きの感じになるのがいいなと思いました。それでも最初は自分たちの演奏を細かく聴きたかったので、マスタリングの最初のバージョン、タイプ1、つまりマイク2本だけで録ったそのまま(1)のはクリアでよいと思っていました。数日間は大好きで聴いていたのですが、自分たちが音符の1個1個を一生懸命、追いかけながら聴いていることに気がつき始めたんです。「これはお客さんも(音楽全体より)1個1個の音に注意して聴いてしまうのかな」と思いました。その聴き方が悪いわけではないけど、自分たちでもリスナーの立場としてコンサートに行く時は「音楽は気持よく、うっとり聴きたい」と思います。すると「ちょっと遠くから、音が融け合った状態で聴いているのがいいよね」と、次第にリスナー側の視点から聴きたいという気持ちに変わってきました。そこで「クリアさは失われないままで、響きを加えることで空間の広がりを感じるようにして欲しい」というリクエストをしました。


山下美音理:ずっと集中して聴いている状況だと、聴いているうちに疲れちゃうかなとも思ったんです。マイク2本だけで録ったそのまま(1)のリアルなものを改めて聴いたときに、細かい音がよくわかる。息遣いもわかるし、微細な音程、フィンガリング、微細な弓の表現もわかる。今思うと、今までの録音、ふつうのCDでそういう繊細な部分は聞こえにくかったのかなと思う。DSDレコーディングほどのニュアンスは聴きたくても聴こえないです。


オノ:仮に2000席のホールの座席でも、最前列よりちょっと離れているところが気持よく音楽を聴けますよね。2階席の前とかバルコニーとか、1階席でも後ろのあたりが気持ちいいことも少なくないです。仙川のホールは、客席から一番離れた場所にマイクをおきましたが、そのホールでは後ろの席ですが、800席くらいのホールに換算しても、むしろ前の方の席の近い距離関係でしたね。

山下いずる:もともとの録音(1)は楽器に弓があたった音なども入っていました。それもリアルでいいと思いますが、今回、私たちが「いいな」と思ったのは、コンサートホールの後ろの方のイメージでした。そこで、オノさんに「もうちょっと響きを足せませんか」というお願いをしたのです。以前よりウィーンのホールは良い響きという話を周りから聴くので、そのホールのリバーブを試してみました。コンセルトヘボウとウィーンのホール、どっちもよかったけど、ウィーンにしてもらったら、お化粧具合がすごく心地よかったんですよね。リスナーの視点から「心地よく聴けるような響き」。見事にそれに合うものをオノさんが選んでくれて、大満足の仕上がりになりました。


久保:レコーディングを行ったすぐ後と、その録音された音を時間をおいて何回か聴くことによって、演奏者本人である山下さん達自身の聴き方や、受け止め方も少しずつ変化していった…という感じですね。


山下いずる:そうなんです。レコーディングから時間たつと段々と変わっていきました。


オノ:CDを聴くほぼ100%の人は、マスタリング後の「製品になった音」しか聴くことはできません。だけど録音現場、つまりホールでは、座る席によって全員違う音を聴いているんですね、当たり前ですが。重要なことは、聴く場所によって聴こえ方や、響き方により、印象が異なるということを理解しておくことです。


久保:ステージと自分との距離感(リスナーの位置)によって、どう聴こえるかが全く変わるんですね。

山下美音理:そうですね。「全体を俯瞰して聴くことができる距離があるんだな」ということに改めて気が付きました。

山下いずる:これに気づくには、時間も必要でした。レコーディングしてすぐだったら、こうは思わなかったかもしれないです。

久保:制作にはどれくらい時間をかけたんですか?

山下いずる:去年の12月からですね。だけど、曲が決まったのは丁度1年前。この曲、コンサートで演奏しようとすると長いんですよ。1曲50分かかる曲ですから選びにくい曲でした。だけど、弾きたい曲だし。むしろ録音であれば取り上げ易い曲だと思いました。レコーディングは去年の12月に一気に3日間で行いました。その後、少しだけ時間を空けて待とうということになりました。

山下美音理:自分の耳と気持ちをリセットして、クールダウンしてから編集しようということにしました。そして2ヶ月くらいかけて編集。全部で200近いテイクがあったのですが、全部を聴きなおして、あーでもないこうでもないと話を重ねながら編集していきました。そして最終形態が決まったのが2月終わりで、3月の終わりにサイデラ・マスタリングに仕上げのマスタリングに来ました。

(その2)へ続く

アンサンブルグループ『Pacificmodern』(パシフィックモダン)今後の活動予定はこちら

Pacificmodernが指導する室内楽ワークショップ発表会
講師演奏としてラフマニノフのピアノ三重奏曲第1番を演奏予定。
ピアノ:川田健太郎
ヤマハ銀座店6Fコンサートサロン
8/6 18:30~

Pacificmodernが指導するジュニア弦楽教室が出演するロビーコンサート
アプリコみんなの音楽祭2014
大田区民ホールアプリコ
7/26 13:00-13:30
7/27 12:00-12:30

Pacificmodernホームページ:www.pacificmodern.net/


参考リンク
※ 1. DSDレコーディングとは
※2. サンプリング・リバーブとは
サイデラ・マスタリングには、3システムのSony DRE-S777、及び YAMAHA SREV1 が常設されています。

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